★泥の河−3★

セオドアの鋭い突きが、カインの槍に絡みつき、槍はカインの手から弾き飛ばされた。

「ッ!・・・・」

カインは瞬時に自分が敗北したことを悟った。
手加減をしてセオドアと対峙していたはずだったが、
自分の怠慢から自分の実力も手加減したいた時のレベルに引き落とされてしまったのではないかと反省すらした。
唖然としながら、痛みの残る手と、叩き落とされた槍を見ているカイン。

「僕の勝ちですね」

セオドアの攻撃に息を弾ませているカイン。
一方、セオドアは涼しい顔をして、汗一つ流さない色白の端正な顔をカインに向けてほほ笑んでいる。

「カインさんと修行を初めてから今日でちょうど5年経ちました」

剣を鞘に収めながら、セオドアは間合いを詰める。
カインは落ち着き払ったセオドアの様子に少し恐怖を感じていた。

「カインさん、僕の二十歳の記念に、僕の願いをかなえてください」

二十歳の記念と言われて、カインはまじまじとセオドアを観察した。
のびやかに成長したセオドア。
普段は甲冑に身を包んでいるため、その容貌をじっくりと見ることは無かった。
女のような顔をして、首から下の体がたくましく成長している。
発達した胸や腕はセシルを彷彿とさせた。

銀の鎧に包まれた足がこちらへ向かって踏み出される。
カインの流儀に従った優雅な歩みだ。
カインより少し身長の低いセオドアは、にんまりと笑うと、カインを引きよせ、口付けた。

「!」

唇を寄せられて、カインは頭を後ろへ引こうとするが、セオドアに後頭部を固定され、動くことができない。
無理やり舌を入れられそうになり、カインは驚きのあまり咄嗟に、噛んでしまった。
痛みに身を引いたセオドアは口を半開きにして、血の滴る舌をさらした。
白い顎に血が滴る。

「ッ・・・すまない」

「酷いな、カインさん。なぜ、僕を拒むんです?」

強引だが、カインをいたわる様子を見せていたセオドアは、今度はカインを強奪しにかかった。

「よせ!セオドアッ」
「カインさん、あなたはもう力では僕に敵わないんですよ」

拒絶する両手を頭上で束ねられ、カインは装備を外される。
日に焼けない白い胸が露出する。

「きれいです。カインさん」

鎖骨に口付け、激しい運動で桜色に色づいている突起に舌を這わせる。
「なッ・・・」
今まで他の誰からも受けたことのない種類の愛撫にカインはたじろいだ。
「何を驚いているんです?いつも父さんにしていることじゃないですか」

そう言われて、カインはハッとした顔した。

「僕が知らないとでも思っているんですか?
あなたは、ご自分の修行で傷ついて帰ってくると、父さんを求めるじゃないですか」

「なぜ、それを、・・・う、あ・・・」
見られていたのか、と咄嗟のことに抵抗をやめてしまったカインは、再び胸をねぶられ、うめいてしまった。

「父さんに許しを乞うように。
あなたが何度も父さんの名前を呼ぶことは、母さんだって気づいていますよ」

凶悪な瞳をギラギラと光らせるセオドア。

「ひどいな、カインさん。僕はずっとあなたのことが好きだった。
あなたに憧れて竜騎士になろうとまで考えていた。
それなのに、僕はあなたと父さんの間を取り持つ、人質にすぎなかったなんて」

「それは・・・」
違う、と言おうとしてカインはやめた。
セオドアの言っていることこそ、正しかったからだ。

「聖竜騎士。父さんが整えるあなたの装備は美しいですね。
でも、魂の住処は酷く蝕まれている」
セオドアはカインの心臓の上に指を滑らせる。
幼さの残る白い指先をかすめられ、カインはビクビクと震える。

「父さんを求めたって、応えは得られませんよ。
あの人はなんだって許してしまえる人だから」

父さんのことを考えて、感じてしまったんですか?乳首が固くなってきた。
さざめくような可憐な笑い声を立てながら、カインをなじる。

男も女も知らないであろう、清廉な指先がカインの両の突起をとらえる。
「あっ・・・あ・・・」
コリコリとつままれ、押しつぶされるとカインはたまらず声を上げた。
セオドアに全てを見抜かれてしまった。
ポーカーフェイスを貫いているはずだったカインは自分の甘さを嘆いた。
このまばゆいばかりの聖なる装備の内側から、腐った魂が溶け出て、罪の沼の中に自分一人で堕ちてしまうのではないかと思っていた。

「僕はあなたを許しません」

とうとうセオドアの手が下肢に触れる。

「父さんを求めたように、僕を求めてください」

そこは既に勃ち上がっていた。
「父さんはあなたを憐れんでいるだけなのかな」
恥ずかしげもなく、従順に足を開いて、あなたをあなたの恥ごと包むんだ。

「体中にあなたの愛撫の後を隠して、あの人は僕と母さんのいるベッドに戻ってくるんです」

僕におはようを言う唇は少女みたいに清潔だ。
あなたは父さんを汚したつもりで、自分だけ汚れていくだけですよ。

「やめてくれ、、もう・・・」

セオドアの指がカインの奥を探る。
「うっ・・・」

セオドアがセシルのことを口にする度に、カイン自身は震えるように、快楽の涙をこぼした。

「あぁ、こんなに口を開いて。はしたない」
カインの足首を掴み、大きく広げると、その内奥を覗きこんだ。
セシルを求めるかのように、そこは、はくはくと開閉を繰り返す。

「僕に抱かれることで、罪を償った気にならないでくださいね」

ヒタリとそれが宛がわれる。
柔らかな微笑をたたえながら、自分を犯そうとするのは、セシルなのかセオドアなのか。
カインはセシルを犯しながら、自分でもセシルに犯されたいと望んでいた。
しかし、セシルは残酷な優しさから、カインを罰するようには犯さない。
労わるようにカイン自身を慰め、そこを自分の奥を貫くようにそっと腰を落としただけだ。
セシルはカインの眼に、罪を犯そうとしても、犯せない人間に映った。

セオドアがゆっくりと侵入してくる。
カインは自分の内側を白日のもとにさらされてしまい、最早隠し立てすることなどなかった。
弛緩した体の空白に、セオドアが染み込んでくる。

「吸いつくように、僕を締めつけてきますよ」
喜んでいるんですか、とセオドアが笑う。
こじ開けるように犯される甘美な羞恥にカインは染まっていた。

痛みを感じていたが、それ以上の快楽がカインを萎えさせない。
「はぁん・・・」
奥を突かれ、カインは悦楽の声を上げた。

暴かれることの快楽。
大きく足を開いたそこに、セオドアが出入りする。
セシルとそっくりな体が、自分を犯している。
カインは思わず、セオドアの首に手をまわした。
「あっ・・・はぁ・・・」

そして瞳を覗きこんだ時に驚いた。
それが青色だったからだ。
その瞬間、きゅっと後ろが縮こまるように、セオドアを締めつける。
「僕は父さんではありませんよ」

「あっ、あ、激しッ、うあ、あ、やめッ、や」
自分の顔に父の面影を重ねられ、セオドアは罰するようにカインを攻め立てた。

「も、だめだ、あ、い、イクッ、あ、ああ」
手の甲を噛み、声を抑えていたが、その手をセオドアに取られ、快楽に染まる顔をさらけ出される。

「あぁッ・・・」
カインの白濁が、自らの腹の上に跳び散る。
勢い良く放出されたそれは、カインの胸まで汚した。
後ろの強い締め付けを感じ、セオドアも達する。

「はぁ・・・」
内奥に熱いものを感じ、カインの内部は痙攣する。

セオドアが出ていくと、閉じ切らないそこからは、白濁が零れ落ちた。
カインを攻め立てることで、精神が高揚していたセオドアは、瞬時に正気に戻った。
「あなただけは、僕を、僕自身として認めてくれると思っていたのに・・・」

今までの毒気が抜けたセオドアは、二十歳の青年らしい、余裕のない顔となった。

擦られ、赤く色づいたところから、白が流れ出る。
その様子にセオドアは煽られる。

すっかり抵抗する気をなくしてしまったカインは、大きな快楽に自分の下腹を抑えるようにして痙攣している。

再び、大きく膨れ上がったものを、震えるカインのそこに擦りつける。
入口をひっかけられるように、弄ばれ、カインの足はぴくりと反応する。

「足りないでしょう?こんなにひくついて。
僕を欲しいと言ってください」

亀頭を潜り込ませ、カインを再び開いたかと思うと、すぐに出て行ってしまう。
浅いところをなぶられると、カインのそこは溢れるように蜜がながれ、後ろまで濡らす。

「セオドア・・・」

くちゅ、くちゅ、と卑猥な音を立てて、セオドアが内部を覗きこむ。
「挿れてくれ・・・」

「あっ・・・」
意地悪にじらされ、カインの目じりには涙がたまる。
「もう、あ、欲しい・・・俺を、犯してくれ」

カインの指先が自らの後ろに触れ、そこを開く。
中の赤い肉が見え、セオドアを待望するように引くつく。
若いセオドアはたまらず、カインに押し入った。

「はぁ・・・あ・・・あぁ・・・気持いい」

「随分、素直になりましたね」

観念したかのように、自ら足を開き、セオドアを受け入れる。
快楽に耐えるように、幼い顔をゆがませ、自分を求めてくるセオドアをカインは可愛いと思ってしまった。
もし、自分自身が二十歳だった頃、セシルとこのような関係になったら、セシルは今のセオドアのように自分を求めたのだろうか。

中に出されたものがかき混ぜられる。
体の中を物凄い水音が駆け巡り、セオドアに犯されていることを思い知らされる。

「あ、あ・・・」
再びカインは上り詰める。
その間もセオドアはカインを攻め立てた。

何度も立て続けに絶頂を極めさせられると、カインは地面に這いつくばるように倒れた。
カインのそこは白い糸を引き、無防備にさらけ出されている。

セオドアは修行の時と変わらない涼しい顔をカインに向ける。

「カインさん、あなたが自分の生に耐えられないと言うのなら、僕が殺してあげます」

もうすぐ、僕は国王だ。僕はあなたの法律になります。
お望み通り、あなたを裁いてあげましょう。

快楽のせいで、目の前がチカチカと白濁するカインの目の前で、セオドアはほほ笑んだ。
その笑顔はカインの目に、清廉潔白のように見えた。

罪と罰。
―なぜ、セシルは国王になった時ですら、俺を裁いてくれなかったのだろう―
セシルの気を引こうと、陥れてきたセオドアが自信に充ち溢れた顔をして、カインの一番欲しかった科白を言った。

カインはセオドアの頬笑みに応えるように、笑った。
目尻からは一滴の涙が零れ落ちた。


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あの日、気を失うように眠りに落ちてしまったカインを、セオドアは律儀にバロン城まで抱きかかえて戻った。
傷ついたカインを清め、邸のベッドへもどしてやる。

セシルはセオドアの様子を見て、たくましく育ったなぁ、と呑気に考えていた。
カインも罪から解き放たれたのだろうか。


翌日からは元通りとなったカインは、聖竜騎士の凛とした装いで姿を見せた。
セオドアの態度も変わりない。
ぬけぬけと、おはようございます、と言うセオドアに、カインはあぁ、とだけ返事をした。

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