★泥の河(セオドア視点)★

カインさんはカッコよくて、頼もしくて、とても強い。
でも、ずっと修行で一緒に過ごしていると、少し抜けているところもあることがわかった。
僕はカインさんを完全無欠の竜騎士と思っていたけれど、こういう時にはカインさんも人間だったのかと思って、少しその存在を身近に感じることができる。
父さんの知らないカインさんを見られたような気がして、優越感を覚えるんだ。
僕は父さんを嫌いなわけではないけれど、こうして背中を追って行くのは、カインさんであってほしいと願っている。


****************


「母さんを呼んでください!はやく!」
カインと一緒に今日も修行に出ていたセオドアが、いつもよりもかなり早い時間にバロン城に戻ってきた。
それも大慌ての様子で。

衛兵は、セオドア殿下の叫び声で、見張り役の平和を乱された。
声のした方に目を向けると、ケガを負ったカインに肩を貸し、顔色が蒼白となったセオドアが満身創痍の状態で帰城する姿が見えた。
カインの足から流れる夥しい血。
衛兵はローザ皇后を呼びに、城の階段を一目散に駆けあがって行った。

ローザとセシルが駆け付け、カインのケガを治療する。
ローザが詠唱を始める。
真っ青な顔をしたセオドアは詠唱の間、
「僕が未熟なばっかりに、僕をかばったカインさんが傷を負ったんです」
とカインを擁護する言葉を言う。
心配そうなセシルは、セオドアの言葉に頷く。
「すまない。セシル、ローザ」
うめくようにカインが言う。

常にセシルとローザを気遣い、セオドアの管理責任を全て負おうとするカインにセオドアは少しの反抗心を見せる。
「カインさんは悪くないんです」
なぜ、こんなにもカインは両親に対して遠慮をするのだろう。
―僕のことを本当に想って、厳しい修行を課してくれるのはカインさんだけなのに―
セオドアは腑に落ちない表情をしながら、セシルに訴える。

ローザがケアルダを唱える。
すると、ケガはすぐに癒えた。
「良かった。カイン、セオドア、二人とも無事で」
セシルはそう言うと、セオドアを抱きしめた。
自分に腕を伸ばしながら、セシルがカインと交わした目配せをセオドアは見逃さない。

セシルの抱擁を振り払うように、セオドアはカインに抱きついた。
「カインさん、本当によかった。ごめんなさい。僕のせいで」
涙ながらの訴えに苦笑しながら、カインはセオドアの頭をぽんぽんと叩いた。
「このくらいのケガは大したことない」
そう言うカインが自分ではなく、セシルの方を見ていることもセオドアは知っている。

もっと修行をして、強くなったら、カインは自分の方を真っすぐ見てくれるのではないか。
セオドアの気は焦るばかりだ。



いつもセオドアの面倒ばかりを見ているカインは、ときどき単独で修行に出かける。
飛龍に乗り、竜騎士としての鍛錬を自分に課す。
帰ってくるときには、聖竜騎士の立派な鎧に傷がつき、装備品が欠けている。
よほど厳しい鍛錬をしているのだと、セオドアはいつも尊敬する。

しかし、この日の夜、カインの様子は違った。
セオドアは、獣が吠えるような声を聞いた。
モンスターが襲来したのかと思い、目を覚ますと、隣で眠っているはずのセシルの姿がなかった。
ローザはぐっすりと眠っている。

父は一人でモンスターに立ち向かうために寝所を出たのか。
この犠牲心をセオドアは気に入らなかった。
結局は、セオドアの力を信頼していないことと同じだからだ。
短剣を取ると、セオドアは塔の階段を下りた。

城門のそばに行くと、その唸り声のようなものの正体に気がついた。
「セシル!セシル!」
もつれた舌で叫ぶように、カインが呼んでいるのだった。
セオドアははっとした。
城門の影に倒れこむカインの姿を見たからだ。
泥に汚れ、深手を負っている。
先日、自分をかばった時に負ったケガよりも酷い。
這いつくばるように、城へ戻り、カインはセシルを呼んだ。
ローザを呼んで来ようかと思って、やめた。
カインはセシルを呼んでいる。
こんな姿を母に見せるのは躊躇われた。

「セシルー!」
恥も外聞もなく呼ぶ。
いつもは凛としたカインの顔は埃で汚れている。
カインに憧れを抱き、神聖視すらしていたセオドアはその姿に衝撃を覚えた。
首を絞められた人間がうめくような声。
セオドアは寒気がした。

そこへ駆け寄っていくセシルの影。
真っ白な光が、カインに降り立ったようだ。
「セシル!」
罪の底から叫ぶような声。
まるでセシルを拝んでいるような。
それでいて、カインはセシルに甘えていた。
許しを請いながらも、許されることがわかっている声。
「カイン!」
無茶しすぎだよ。バカだな。
カインの手がセシルの背中にまわされる。
セシルの羽織っていた白い夜着は、カインの手によって汚されている。
「セシル」
一度だって、こんなに絶望的な愛情をこめて、人の名前を読んだことがあるものか。
セオドアはカインの惨めな姿を影から見てしまうことに恥を感じた。

「待って、カイン」
セシルがケアルラを詠唱する。
温かな光がカインを包む。
しかし、セシルのケアルラは威力不足だ。
何度も詠唱を試みる。
カインだって、ケアルラを唱えられる。しかしそれをしない。
カインはセシルに拾い上げられることを願っている。

何度目かのケアルラで、カインは生気を取り戻した。
「カインッ」
倒れこむカインを覗きこむようにしていたセシルは、突然カインに手を引っ張られ、カインの上に倒れこんだ。
カインの手がセシルの頭を抑え込むようにする。
「んっ・・・ふぅ・・・」
セシルの口を無理やり開かせ、カインが舌を差し込んでいる。
夜の静寂の中に、くちゅ、くちゅという水音が聞こえてくる。
その音が獣が捕獲した小動物の血を啜るように残忍に響く。
セシルの銀色の髪が、カインの血で汚れている。
「やめて、カイン、こんなところで」
夜着の中に手を突っ込まれ、セシルが抵抗する。
しかし、カインの切望するような瞳を宛てられると、セシルは黙り込んだ。
「あっ・・・」
わき腹をなで、胸に指をかけられると、セシルは声を発する。
セシルは導かれるようにカインの装備を解くと、性急にカインのものを掴んだ。
セオドアからは、セシルの白い手が上下するところが見える。

そして、セシルは自ら足を開き、カインの上にまたがる。
「あ・・・、う・・・」
今度はセシルの方が苦しそうにうめく。
慣らしもせずに、いきなりの挿入。
セシルの腰にカインが手を伸ばし、引き下ろすようにする。
「うあ・・・」
セシルのそこが傷つくのもおかまいなしに、二人は交わる。
月が照らす夜。
獣の戯れが始まった。
上に乗り上げて、腰を振るセシル。
そのセシルを更に乱そうと下から突き上げるカイン。
セシルの銀糸が空に舞う。
「あぁっ・・・」
叫び声が上がると二人は痙攣した。
セシルが震えながら、カインの後ろに倒れる。
そこからカインが引きぬけ、白濁が溢れてくる。

すると、今後はカインがセシルを引き倒す。
腕を拘束するようにつかみあげると、後ろから貫いた。
「あぁ!・・カインッ!痛い!いやだぁ!」
血と汚液が溢れるそこを無茶苦茶に突かれ、セシルは泣き叫んだ。
体勢を整えようにも、カインに腕を取られ、セシルは地面に頬を押し付ける形で犯されている。
肉が叩きつけられる音。
揺さぶられるごとに、乱される銀糸。
セシルの頬には涙が幾筋も伝わっている。
「あぁ・・・あう・・・あは・・・ふぅ・・・」
今度はセシルが獣のようにうめく番だった。
カインが腰を打ち付けるごとに、セシルの腿には血と精液が飛び散る。
「はっ、あ、あ、くっ」
血の匂いが漂う性交。
それでも、セシルの顔には圧倒的な快感が浮かび上がっていた。
二人は再び達する。

荒い息をつきながら、セシルは体を起こし、仰向けになる。
そして、カインを誘うように足を開いた。
泥に汚れた足の爪先で、カインのわき腹をそっとなぞる。
カインはその足を捕まえ、指を口に含む。

セシルからは眩しいほどの月明かりに逆行になったカインの瞳が見えた。
赤みを帯びるようにギラギラと光っている。
足の指の股を執拗に舐められると、セシルの内奥が再びうずき出す。
カインの腰に自らの足を絡め、早く貫けと催促する。
二人の影はまた一つとなった。


********************


次の日、何事もなかったかのように、セシルはベッドで目覚めた。
ケアルラをかけ、念入りに体を洗い、ベッドに戻ったセシル。
しかし、セオドアだけは事の成り行きを知っていた。
セシルが着ていた夜着は、おやすみの挨拶をした時のものとは異なっていた。

「おはよう、セオドア」
とほほ笑む唇は、カインに酷く貪られていたにも関わらず、十代の少女と見まがうほどの清廉さだ。
今すぐに夜着を剥ぎ取って、昨日の証拠を確かめてみたい。
しかし、隣で身じろぎをするローザに遠慮して、それはできない。

セシルに関しては少しの変化にも敏感なローザはこのことに気がついていないのだろうか。
セオドアはローザを見やる。
自分の認めたくない感情を顔の上に出さないローザの本当の気持ちをセオドアは測ることができない。

しかし、騎士としての鍛錬の途上であるセオドアですら、気配を感じ取ったカインの叫び声をローザが聞き逃すとは思えなかった。
あの必死で助けを呼ぶカインの声を、ローザは肯定したのだろう。
カインを受け入れて、許しを与えられるのはセシルだけだとローザは黙認したのだ。
そのカインの縋るような祈りを、セシルは受け入れ、自分も同じ場所へ堕ちて行った。

泥の中でもがくように、求めあう二人の姿が脳裏に浮かぶ。
普段は潔癖とも言えるような出で立ちで、国を治める二人。
しかし、誰も知らないところでは、泥の河の中に沈んでいくことが救いだったのかもしれない。

セオドアは修行のため、カインの背中を追いながら、カインを許したのだった。


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