★セシル、見えていないのかぁー★

「やれやれ。待ちくたびれたよ」
バロン城の王の間に忍び込むようにして入ってきたカインを、セシルは悠々と玉座に腰を掛けながら迎え入れた。
カインはセシルを殺すつもりで城へ現れた。
「あれから何年経ったっけ?ようやく決心がついたのか」
嘲笑するような口調で、セシルはカインに問いかける。

決心。その意味。
バロン一の騎士になること、愛するローザを娶ることを夢見ていたカイン。その志を挫いた自分。
全てを手中に収めたセシルへ対する嫉妬を克服せんがために、カインは試練の山へ籠った。
嫉妬心を克服すること、それは自分に服従するか、自分を殺害するか、二つに一つだと、セシルは思っていた。
そして、ようやく、どちらかを選ぶ決心がついたのだ。
彼は来た。自分を殺しに。

カインは鋭い視線で、セシルを射った。
セシルは一段高いところに備え付けられた、玉座に悠々と座っている。天窓から射し込む光がセシルを輝かせている。
自分を嘲笑するつもりで、言葉を吐いているセシルではあるが、なぜか瞳は交り合わなかった。
思い返せば、自分とセシルとの関係はいつもこうだった。
セシルは自分でも気がつかないうちに、カインより一段高いところにいた。
力を手にし、民の信頼を一身に浴び、当たり前のようにバロン城の主となった。
カインは常にセシルをライバル視していた。自分と肩を並べられるのはセシルだけだと思っていた。
血のにじむような努力をし、セシルと張り合っていたカインは、修業の途中でセシルの顔を盗み見た。
セシルの方でも、自分のことをライバルだと思っているはずだった。
カインの功績を意識し、それに負けないように努力をする、セシルはそういう顔をしているはずだった。していなければならなかった。
しかし、セシルは全く違う顔をしていた。セシルはカインのことなど、気にも留めていなかった。
カインも、王陛下も、バロン国さえその目には入っていなかった。セシルは世界の平和を、望んでいた。その眼差しはどこまでも高いところへ向いていた。
その時、カインはセシルに、絶望的な敗北を喫したのだった。

十数年ぶりに再会したセシルの瞳も、自分など見つめていはしない。
どこか焦点の定まらない目で、なおざりにこちらを眺めていた。
その様子に、カインの憎しみは燃え上がった。
カインは槍を構え、一気に間合いを詰めた。
身が凍るような鋭い殺意を向けられてなお、セシルは動かなかった。
カインの槍が玉座に突き刺さる。
セシルは首を傾け、最小限の動きでカインの槍を交わした。
カインはセシルの首筋に槍を突きつけた形で静止した。
とうとう追い詰めた。セシルは身動きができない。
しかし、なぜ反撃しない・・・?
カインはセシルの視線が全く動いていないことに気付いた。槍を交わす時、刃を見つめることさえしなかった。
「セシル、お前・・・」
カインの腕は震える。諦めにも似たような表情をしたセシルが虚空を見つめている。
「見えていないのか」
緊張のあまり上ずった声でカインが言う。
カインのひどい狼狽に、セシルはくつくつと笑いだした。
「あぁ、見えない。残念だ、君の顔を見られなくて。今の君ってば、おかしな顔をしているんだろうね」
カインの背中に冷たい汗が流れる。
カインの怒りは、今やセシルではない他に向けられていた。何がセシルから光を奪ったのか。セシルは完璧な存在でなければならなかった。
自分に殺されるような男ではないはずだ。

セシルが急に笑うのを止め、無表情に戻った。
「君に僕が殺せるかい?」
カインの槍の先がセシルの首筋に傷を付ける。致命傷となるには程遠い、ただのかすり傷。
突き立てた刃に血が滴る。カインの瞳は揺れた。刃に広がる鮮やかな赤を見て、セシルに傷を付けてしまった自分を悔いずには居られなかった
その気配を感じ取り、セシルは口角を上げた。
「僕なら君を」
槍を首筋に突きつけられてさえ、セシルは揺るがなかった。
「殺せるよ」
その瞬間、セシルの視線はカインを捕えた。見えないはずの目に星が瞬くように光が宿り、カインを射る。
優雅に玉座に腰をかけ、カインを見据えている。
カインは雷に打たれた様になり、持っていた槍を取り落とした。
それは啓示だった。
服従か、殺害か。カインの腹は決まった。

セシルの襟を掴んだ。そのまま背もたれにセシルを押し付けると、強引に口付けた。
「んぅっ・・・ふっ・・・」
噛みつくようなキス。セシルは苦しそうに眉を寄せている。
苦悶に歪んだ顔は美しかった。カインはようやくセシルを取り戻せたように思えた。
「カインッ・・はぁ・・・カインッ・・・」
舌を絡め合いながら、セシルが名前を呼ぶ。それによって、カインは自分を取り戻した。
セシルの手がカインの頬を包む。カインの輪郭をなぞることで、セシルはカインを確かめていた。
カインはセシルの着ている服を乱暴に脱がす。セシルも応戦するかのように、カインの服を切り裂いた。
殴り合いにも似た激しさで抱き合う。
お互いに体はひどく昂ぶっていた。
馴らすこともせずに、カインは早急にセシルを貫く。セシルは痛みに体を丸めた。
自分の下に収まったセシルを見て、カインはセシルを征服できたように思えた。しかし、心はどこまでもその瞳に囚われていた。
「くぅっ・・・うぁ・・・」
セシルが苦しそうに呻く。浅い呼吸を繰り返し、なんとか落ち着こうとする。
カインはセシルをあやすように抱きしめた。
「ふっ・・・ん・・・」
腰を使いだすと、セシルは苦しげながらも、感じ入った声を上げた。
「はぁ・・・あっ・・・」
頬が上気している。蕩けたような瞳。
カインは昔に戻れたような気がした。
「あぁ・・・カインッ・・・」
ひと際高い声でカインの名前を呼ぶと、セシルは達した。カインも同時に極めた。
セシルはそのまま意識を失ってしまった。
玉座に沈みこむ体。
カインはセシルの髪を撫でた。そして、もう一度口づける。

セシルをこんな姿にしたのは、あの少女に違いない。
少女を殺せば、セシルは光を取り戻せるかもしれない。
自分が再びセシルの目に前に現れるのは、少女を殺してからだ。
カインはそれを心に誓うと、王の間を後にした。

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アンドレ、見えていないのかぁーと変奏曲をミックスさせてみました。

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