花と彼のそこへ至る顛末。
花と彼のそこへ至る顛末。(四)
そのとき、花は台所で枝豆を茹でていた。
納得のいく固さと塩加減にするためには自ら調理するしかないからだ。母のゆでる枝豆は柔らかすぎる。
「あらっ! ええはい、ご無沙汰しております〜!」
電話が鳴ったな、と思ったら、受話器を取った母が声高に会話を初め、大きな声出さなくても聞こえるってばと小さくツッコミを入れて。
どうやら久しぶりの知り合いからのよう。
枝豆の茹でが最高潮に達していた花は、だから、そのあとの母たちの会話を耳にすることはなく―――
「花。来週の日曜日、アンタお見合いだから」
電話を切った母の宣言にポカンとするしかなかったのだ。
お振り袖出さなきゃ〜とやたら浮かれている母に、金縛っていた花は待ったをかける。
「いや待って!? 何で見合い! お姉ちゃん飛び越して何で私が見合い!!」
「先方からのリクエストだもの。第一、お姉ちゃん彼氏いるでしょ」
そうだけど。
てか、ワタクシまだ学生そして二十歳だよ、まだ!
なんとなく嫌な予感がして花は恐る恐る尋ねる。
「先方からって……」
「藤枝先生よ。アンタこないだ会ったって言ってたでしょ」
「言ったけど会ったけど! ………てことは?」
「あちらのお孫さんと、是非にですって。花、なついてたじゃない。たしかうっとりするくらい男前だったわよねぇ〜」
せんせいーーーーー!!
そんな切羽詰まっているんですかっ、藁にでもすがるおつもりで私ですか!
あのとき綾さんが私に対して態度が柔らかかったのは女性としてではなく、昔、弟のように可愛がっていた相手としてですよ!
そんな花の叫びは当然ながら丸無視され。
めでたく本日とあいなったワケであります………。
「回想終わり。」
呟いた花に、なんですか、とキョトンとした瞳が向けられる。
イエ何でも、と手を振って、花は斜め前を行くスーツ姿の青年に並んだ。
さすがに植物に詳しい綾が、庭園を彩る花々について時折コメントを述べ、名前絡みでもちろん植物は好きな花も、アレコレ尋ねたりして。
誰が見ても見合い中の二人だった。
だがしかし、色めいたものは全くない。
花は綾を見上げてぼやいた。
「綾さんが止めてくれればよかったのに」
「祖母をですか? 無理ですよ」
うん、だろうな〜とは思った。
苦笑を返した彼に、花は自分でもたぶんうやむやに流されちゃっただろうなぁと頷く。
藤枝の老婦人はおっとりしているようでなかなか押しが強かったりするのだ。
綾は、それに、と続ける。
「花さんならいいかなと」
よそ見をしていた花は、うっかりそれを聞き逃すところだった。
「――はい?」
「花さんの旦那さんならなってもいいかなと思ったんですよ」
――なんで旦那さん。
普通お嫁さんにするなら、とか、結婚するなら、とかじゃないのかこういうとき言うのは。
いやいやいやそう言ってほしい訳じゃないけど、
突っ込むべきか否か悩む花を置いて綾はさらに続ける。
辺りに咲き揃う薔薇にも負けない笑顔で。
「おてんばだった花さんの旦那さんなんて―――興奮しますね、もちろんそういう意味で。」
「………………………………。」
気のせい。気のせいだ。断固としてツッコミを拒否する!
今まで培ってきたスルースキルを発動し、花は、薔薇キレイですね〜、と当たり障りない相づちを打った。
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