花と彼のそこへ至る顛末。2(八)

「いちごミルクです」

花が文字を書いたボードを前方に見せると同時に、綾が声を発した。
どよめきが会場を揺らす。

「ここまで28問全正解ッ! ここまでわかりあっているカップルは初めてではないででしょうかっ」

マイクを握った希美が、興奮した様子で実況中継さながらのコメントを叫ぶ。

 わかりあっていなから。

と、どこか遠い目で花はツッコミをいれた。心の中だけでだが。

50問突破なるかー!? と盛り上がっている会場内を壇上から眺めながら、ニコニコしている婚約者という肩書きの奇人変人に視線を移す。

司会者である友の次の質問に、ボードに答えを書き込んで、再び――どよめき。

感心する人々とは裏腹に、花は綾の胸ぐらを掴み揺さぶりたい気持ちになった。

 綾さん絶対私に盗聴器とか仕掛けてるでしょ!
 諜報員を配備しているでしょおおおお!!?

そう思うくらい、この正解率は異常だった。

司会者の質問に、彼女(又は彼氏)が答えをボードに書き込み、彼(又は彼女)はそれを見ずに答える。
質問内容は、彼女あるいは彼個人に関するもので。
誕生日、血液型から始まって、好きなもの、嫌いなもの、それくらいなら花だって答えられる。

だが、何故話してもいない初彼のことやなにやらまで知っているのか。


――客寄せパンダになってちょうだい!

友人である希美に捕まって、そう懇願――否、命じられた。
交代の時間が、という言い訳は、あっちには許可もらってるから! という言葉に却下された。

希美たちの出し物はカップルクエスチョン、どれだけお互いのことをわかっているか試し合うゲームだった。
心理状態や関係性などをデータにするための企画だったらしい。

だが、照れがあるのか試されるのが嫌なのか、なかなか客は集まらず――共通の友人から、花の恋人が来ていることを聞いた希美は彼女たちをサクラにしようと捕獲した訳だ。

綾は綾で何故かノリノリ。
あれは絶対花が嫌がることを見越して違いない。

――そうしてこの騒ぎ。

「では第36問! 今彼女は何を思っているでしょう!」

もうそれカップルクエスチョンじゃないよな、と思いつつボードに言葉を書きなぐる。

「いい加減この茶番から解放しろ、かな?」
ニコニコとボードに書いた言葉を口にする綾。
エスパーか。読むな。

「仕込みではありません、ありませんよー!」

では第37問! とすっかり当初の目的を忘れている友人と見世物を楽しんでいる観客たち――知ってる顔がかなり混じっているのは気のせいか、気のせいだと思いたい――を睥睨して、花は頭痛を堪えるようにコメカミを揉んだ。




「50問突破おめでとうございます! 彼女が暴れだす気配がなければ、100質まで行きたかったんですが」

調子に乗った友人の発言を、すっかり人相が悪くなった花が睨んで黙らせる。

「……こんな感じなのでまたの機会に! こちら、細やかなものですが50問突破記念です」

いつの間に用意したのか花束とツーカーカップル証書なるものが綾に手渡された。

「藤枝さん、ストーカーばりの彼女データでしたが、それについては?」

やっぱり他人から見てもストーカーだよな、と虚ろな目で花は唇を歪めた。
マイクを向けられた綾は、ふんわりと微笑んだ。

「――愛し合う二人なら当然でしょう?」

ぞわあ、と悪寒を走らせ硬直した花の頭のてっぺんに、どさくさで綾が口づけて――歓声どころか爆発するような音の破裂が会場周辺に広がって。

花は気が遠くなった。



後日、花が校内でどういった噂話に翻弄されたのかは、また別の話。



<終。>

 

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