花と彼のそこへ至る顛末。
花と彼のそこへ至る顛末。2(七)
そのあと、意外なことに綾が妙な発言をして花の怒りを誘うこともなく、普通に祭りを楽しんだ。
……まあ、始終、周囲から好奇めいた視線が付きまとっていたことは否定しない。
それよりも大人しい綾の方が花にとってはよほど不気味だった。
興味の惹かれる屋台をひやかし、軽いものを食べて、ふたり、ぶらぶらする。
着物姿とメイド服、道行く人々は一瞬目を奪われるものの、おかしな格好をしている者は他にもいるのだ。
学内を彩る雑多な人々にまぎれ、綾に対する凝視は長続きすることなく、散っていく。
街中をハーメルン状態で歩くよりまだマシか、と花はその状況に慣れてきていた。
自分の学生生活を訊ねられるまま話す花に、綾は穏やかに微笑み耳を傾けていた。
いつもこうならいいのに、と思いつつも、そんな綾は綾じゃないかと諦める。
何だかんだ、おかしな綾の発言を受容している自分も結局、どうしようもないなと思う瞬間だった。
「花さんの休憩時間はいつまで?」
「んー、もうそろそろ戻んないと」
綾の問いかけに、このまま逃亡したいような気分で花が答える。
あの騒ぎの中、逃げを打ったのは間違いだったかもしれない。
戻ったら質問攻めは必至。
一時騒がしかっただろうが、あのまま踏みとどまり、紹介と称して綾を生け贄にすれば、自分ひとりで奴らに立ち向かうはめにならなかったのだ。
が、しかしそれはそれで、綾が何を言い出すかわからないという、危険が生じる。
綾の奇人変人発言と自身の保身、天秤にかけてグラグラ揺れる様を見守った。
保身に皿が傾きかけたとき――
「いたっ! 花ッ!!」
聞き覚えのある声がこちらにタックルをかけてきた。
とっさに飛び退く。
背中にぶつかった綾が条件反射のように腕を回してきたのはご愛敬、空振りを食った友人が恨みがましそうな目でこちらをみたのもご愛敬。
――なわけがない。
「逃がさないわよ! 彼氏さんっ、捕まえててくださいっ」
「はい?」
「んな?! ちょ、綾さ……!」
ギラギラした目を花に向けた彼女の友は、訳がわからないまま花をこれ幸いと抱きすくめた綾と花を見て、ニヤリと笑う。
嫌な予感が花を襲った。
「いいわ、いいわよ〜。客引きにピッタリ! お時間あります、彼氏さん。是非花と一緒に協力してほしいことがっ」
友人らしきやたら勢いのある女性と、彼女の発言に暗雲を背負ったような表情になった花を見比べて――綾は極上の笑みを浮かべた。
「僕でお役に立てることなら」
このあと起こった大騒ぎを考えれば、彼をとっとと帰していればよかったと思った花に、罪はないだろう。
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