flowery flower


彼氏のおうちで(2)
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私たちって、付き合い始めてまだ二日目だよね?
再会したのなんて、数ヵ月前。

なのにどうして、こんなにお互いの存在に馴染んでいるんだろう。


抱き枕のように椿の腕の中におさまって目覚めた私は、心地よい体温と彼の気配に安堵する。

誰かとくっついて眠って熟睡なんて無理、と以前は思っていたのに不思議。
痺れたような気だるさの残る身体とは反対に意識はスッキリしてた。
ずっと、このままでいたいけれど。

そうはいかないのが、社会人なんだよねぇ……。

「……椿。つーばーき、起きろ、朝だよ、仕事っ」

軽く揺さぶって、覚醒を促した。
椿は眉をしかめ、身体を丸くするように私を巻き込み再び寝る体勢に。
軽く押し潰されてムギュゥと呻く。

ダメだっつーの。

今日は面倒臭い会議があるんだよね、とか言ってたの自分でしょ。

「椿っ、」
「……キスしてくれたら起きるー」

あ?
起きてんじゃんかよ。

「キースー」

なに可愛くねだってんだこの野郎。

むむっと躊躇ったのは一瞬、アホだなぁと思いつつ、緩んだ腕の中から這い出して、ちょん、と触れるだけのキスをしてやった。
素早く身を翻しベッドから離れる――はずが。

「んんんっ! むー、ぅー!」

当然の如くひっ捕まえられ、キスってのはこういうモンなんだよ、みたいなお手本を実地で示され……、ついでにイタズラされた。


「ば、ばかたれ……、」

ぐったりした私を置いて、上機嫌で椿はベッドを下りる。

「あー、朝から誘惑に負けそうになった。伊万里のせいだ」


……断じて私のせいではない。



「なぁ椿、テキトーに朝ごはん作っても構わない?」

私と入れ替わりに洗面所に向かった椿に声をかける。
お好きに〜、と返事をもらってさっそく冷蔵庫に手を伸ばした。

初のお泊まりで厚かましいかな、と思いつつもキューキュー鳴る腹の虫には勝てなくて。

『彼氏に朝食☆新婚さん気分♪』なんて可愛らしいものではなく、切実に空腹をどうにかしたかった。

あ、マフィンがある。
冷凍してるなんて意外とマメ?

玉子、チーズ、賞味期限微妙にヤバげだけどまぁいいか。
ハムとかないかな〜、

よし、コンビーフ発見。

野菜室を探ってちょっと萎れたジャガイモと玉ねぎをひとつずつ。
自炊のアイテムは揃っているけれど、あまり使ってない感じ。

外で食べることの方が多いからかな?

だから逆に、彼のルールのないキッチンは使いやすかった。
基本通りに包丁とかお皿とか、置いてあったしね。

ジャガイモは萎れてる分厚めに皮を剥いてサイコロ切りにしたあと、ラップをかけてレンジにかけた。
その間にお湯を湧かして、薄く切ってバターで軽く炒めた玉ねぎとコンソメを投入。適当スープの出来上がりだ。

玉子はチーズを入れてオムレツに。
レンジから取り出したジャガイモにコンビーフをマヨネーズで和えて、塩コショウで味を調えた。

青物がないのがざんねん〜、と思いつつ、丁度良さげな四角いお皿にオムレツとポテトサラダを乗せて、最後にトースターで焼いたマフィンを添えたらオッケー。

有り合わせとはいえ、出来に満足してお皿を持って振り返る――と。

ぶつかるくらいの近さに椿がいて、ギョッとした。
カウンターに手をついてニヤニヤしてる。

「なに、ニヤついて。気持ち悪」
「いや、ホントにニヤケてた。伊万里がうちのキッチンに立ってるのめちゃくちゃ萌える」

萌えとか言うなよ。
ゆるんだ笑みを隠そうともしない椿にこっちも気恥ずかしくなってくる。

ニヤけ顔をジロリと睨んで、お皿を押し付けた。

「見てないで運べ!」

はいはい、なんて言いながら、掠めるようにキスが。

………っ!

デコを押さえた私は、馬鹿みたいに真っ赤になっていた、と思う。




 

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