flowery flower
彼氏のおうちで(3)
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本日、仕事が休みの私は、「ゆっくりしてていいよ」という椿の言葉に甘えて、昼過ぎに自宅へ帰ることにした。
起きたときのまま、スッピンに借り物Tシャツ、昨日のジーンズという格好で裸足をぺたぺたさせながら玄関へ出勤する彼を見送りに行く。
靴を履いて、カバンを持ち直した椿が、少し低い目線からこちらを見上げてきて。
「? なに?」
「……一緒に出勤するのも楽しいと思ってたけど、」
うん?
「見送られるのも良いね。……新婚みたいで」
イタズラな笑みと共に、ちゅ、と掠め取られるキス。
……しっ…、ぅ、ううぅう……!!
こいつは何度私を恥ずかしがらせれば気が済むのーー!?
胸の鼓動が休まるヒマもなく、椿が放ってくる甘い言葉や触れる指に、そういう雰囲気に慣れてない私は赤面しっぱなしになってしまう。
これでワザとじゃないところがタチ悪い。
あうあう言葉につまる私にクスリと笑い、肩に垂らした結った髪の先をすくって、指先で弄ぶ。
「……やっぱり帰るの?」
朝食の間も何度かしたやり取りをも一度蒸し返されて。
「だって、家の片付けとか、放りっぱなしだし……」
椿の休みは私と一日ズレて、明日・明後日。
夜はゆっくりできるから、今日も泊まっていかないか、とお誘いを受けているワケなのですが(ちなみに私は遅番勤務)。
実を言えば、お泊まりは、別に全然構わないんだけど。
椿の家の方が仕事場に近いし、遅く出ても間に合うし。
――でもさ。
付き合い始めから彼氏の家に入り浸るって、どうなのーー?!
もっと、一緒にいたい。
そう思う心は私にだってある。
ある、んだけど……っ!
なんだか、ちょっと急ぎすぎてない? 私たち。
突然いなくなった初恋の相手。
再会したのはまだ少し肌寒い二ヶ月前。
お互い忘れてなくて、あの頃とは背の高さも髪の長さも声も、形だって変わっていたのにすぐに分かった。
時間の空白なんて無かったみたいに。
やっぱり彼を好きになった。
彼以外に今まで、好きになったひとがいない訳じゃない。
だけど誰よりも、肌が馴染んで同じ空間にいることが心地好くて、嬉しくて。
気持ちを伝えあったのは、身体を繋げたのは、二日前。
二日前、なんですよ?
べたべた、し過ぎじゃないかなあっ……?(いやだと言う意味では決してなく!)
今から、こんなんで、早く、ダメになったりしないかな。
幸せが大きいぶん、それがなくなったとき、凄く辛いんじゃないかな。
始まったばかりでこんなこと考えるの馬鹿げてるってわかってる。
でも、ほんの少しの不安が、こっそり私に囁きかけて、目隠しをするんだ。
だからちょっと、浮かれた気持ちを落ち着かせる時間が欲しい。
告白してから一人になったのって、仕事中と待ち合わせてた時くらい、なんだもの。
「……もっと一緒にいたいんだけどな……」
名残惜しげにもう一度私の唇を啄んで、一人言みたいに呟いた、椿の言葉に隠れた寂しさ。
それを感じてチクリと胸が傷んだ。
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