flowery flower


彼氏のおうちで
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「お前の先輩って何者なんだ……」

滑らかに昇ったエレベーターを出て。
どこのホテルですか、なパッセージを抜け。
つるつるぴかぴかな床にビビりながら椿の部屋に到着した。

間取りはこんな感じ。
玄関を入って右側にバスルーム、トイレ、左側に洋2室。
カウンターキッチンの向こうはだだっ広いリビング、奥に和室が一部屋。

まあ、普通の作りだよね。

……いちいちその広さに驚かされなければ。

初めて来る彼氏の部屋。本当ならアチコチ見回ってチェックしまくりたいんだけど、既に容量いっぱいいっぱいな私はチラ見しただけでグッタリして探索を諦めることにした。

椿がこっちに戻って来てから半年しか経っていないせいか、最初の二間は段ボールに入れられたままの荷物と、あまり使われた様子がないベッドがひとつが置いてあるだけで、綺麗なものだった。

その代わり、と言っては何だけど和室がすごい状態。

和室には三台のパソコンが置かれていて、それに付随する機器がゴチャゴチャと配線で繋がってる。
今はスリープモードのそれは、常に稼働状態にあるらしく、微かな働音を響かせている。

コンピュータのことを知らない私は怖くて迂闊に近寄れない。
ていうか足を踏み入れた途端、線に引っかかっってスッ転びそう。

タコ足にも程があるんじゃないのか、椿?

機械を弄っていないときはだいたいここにいるのか、リビングにもノートパソコンがあって、周りにはコンピュータ関連雑誌や経済紙が乱雑に置かれてる。

その事が少し私をほっとさせた。

ガラステーブルとソファ、壁には何インチあるのよ、なハイビジョンテレビと周辺機器。これらは椿が揃えたんじゃなくて、最初からこの部屋に設置されてたんだって。

椿が言うには、先輩が住居を用意したのも椿に対する厚待遇ないろいろも、それは決して好意などではなく、彼をこき使うのに都合がいいから、遊ばせてあった部屋に放り込んだのだということらしい。

別に部屋代はいらない、と言う先輩にそこまでしてもらったら後でどんな無理難題をぶつけられるか恐ろしくて、譲歩に譲歩を重ねて毎月いくらか払うことを納得させたそうだ。

で、私の発言が来るわけなんだけど。

「確かにちょっと金銭感覚とか一般常識とかマヒしてるところあるけどね。先輩としても上司としても、頼れるひとだよ」

キッチンで片付けものをしていた椿はそんなことを言い、ソファでなく床にペタリと腰を落としていた私の側にやって来た。

手持ちぶたさに周りの雑誌を積み重ねていた私に、カフェオレが入ったカップを渡してくれて。
当然のように隣に座る。

み、密着しなくても。
内心うろたえる私に椿はにっこり笑った。

「と、いうか俺といるのに他の男の話をしないように」

いやいやいや! ちょっと聞いただけじゃないの!

さらりと放たれた軽いヤキモチを感じさせる言葉に、照れた顔を誤魔化すように、カップを傾けた。

ひとくち含んで不思議に思う。
丁度いいミルクの量と甘さ、何で知ってるの。

「……何かアレだよ、私のせせこましい1Kの部屋を見せたの、ちょっと後悔」

だってさ、私の部屋、このリビングくらいなのよ!
なにこの不公平感!
稼いでる金額がまるきり違うのは分かってるけどさ!

むくれる私にクスクス笑って、肩に落ちた髪を梳いてくる。

「俺は、あの部屋いいなって思ったけど? 伊万里が工夫して過ごしやすくしてるから、居心地良かったし。……部屋全体から、伊万里の気配がして、ドキドキした」

髪に触れる椿の指先と、甘いまなざしに馬鹿みたいにうろたえてしまう私を、椿は全部分かってるような気がする。

もう、身体だって重ねたあとなのに。

どうしてこんなに彼の瞳に写る自分が恥ずかしくてくすぐったくなるんだろう。



――肩に回された腕が、抱き寄せるのに、私は素直に身を任せた。



 

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