flowery flower
彼氏と彼女(6)
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三十分しか同席を許さない、なんて椿は言ったけど、結局、彼らと別れたのは帰る間際になって、だった。
店を出たあと、かなり出来上がってた望田さんを強引にタクシーに押し込む。
あとは水原さんに任せたと椿はアッサリ背を向けて。
いいのかな、大丈夫なのかな?
慣れた様子だったから、こんなのは日常茶飯事なんだろうか。
「あ〜、時間を無駄にした……」
「えと、お疲れさまデス……?」
「んー」
肩凝った、と腕をグルリと回してから、オモムロに椿は私の手を取り、ふんわり笑う。
「ようやく二人きり。早く、いちゃいちゃ出来る所へ行こう?」
………。
だっかっらあああ〜!
恥ずかしいの、恥ずかしいんだよ椿ってばー!
確かに周りに人はいないけどっ、どうして恥ずかしげもなくそういうセリフを……!
うう、顔、絶対赤いよ私。
照れ隠しに視線を外して、むぅと頬をふくらます。
椿は、 大きな手のひらに納まった私の手を指先で弄んでニコニコ。
っていうか。
「……椿。お前、面白がってるだろ」
「ん、伊万里のもの慣れないとこ可愛いね」
……ムカつくぅ。
ギロリと私が睨んでもどこ吹く風、あくまでも椿はマイペース。
ちゃっかり手を恋人繋ぎに直して、ゆっくり歩き始めた。
特に逆らう理由もなく――ていうか、もともとはその予定だったし大人しくついてきますが。
そういや椿のマイペースなとこ、昔からだなぁ。
もう、何が原因だったか覚えてもいないけど、男子と女子が教室を二分する争いを始めたときも、どちらに荷担することもなく我関せずの態度を貫いていたっけ。
一歩離れて、皆が騒ぐのを淡く微笑んで見ていた。
今思うと、それで疎外されたり嫌われたりしなかったところが、なんて言うか椿らしい……。
私?
私は男なんだか女なんだかわからない扱いだったから、取りあえず中立を保っていた。
野郎と女子の愚痴をそれぞれから聞かされたり、
逆に今までグランドを駆けずり回っていた仲間連中から“やっぱオンナだしー”なんて思ってもないことを言われてハブられたり、
女子からも“あっちにいい顔してんじゃないの”とか意味不明な言いがかりをつけられ、またしてもハブられたりして、
いい加減雰囲気の悪い教室にイライラ、ある日大爆発したんだ。
「何が不満なのか言ってみろー! ちなみにあたしはしんきくさい毎日に大不満だ、宿題がぜんぜんわからねぇ! テメエらいい加減仲直りしやがれッッ!!」
と、教卓に仁王立ち、宿題は関係ないんじゃないと突っ込んだ誰かをあえて無視して(っていうかアレ椿だった、椿だったよ、そういえば!)順々に発言を強制、結果、堰を切ったように言い合いが始まり、全員が溜めていた色々な感情を吐き出したあと、クラスは元に戻った。
そしてそのあと担任に私だけ叱られたのが、今でも納得いかない。
椿はそのゴチャゴチャの中で、常に自分の立ち位置を変えなかった。
ある意味、冷たいんじゃないかというくらい、みんなと距離を置いていた。
当時の椿の事情を知った今なら、そうした理由がわかるけど。
まだ考えなしの野生動物だった私は、そんな椿を印象の薄いやつ、なんて思ってたんだっけ。
短くて濃密な、二人きりの放課後を過ごしたあの時に、その印象はひっくりかえるんだけど。
こんな濃ゆい性格してたなんて詐欺だ……。
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