flowery flower
彼氏と彼女(2)
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「ツバッキー! 見たぞ見たぞ、何よあれ〜」
ドスリと背を叩かれる衝撃のあと、同僚の望田が俺の肩に腕を回して絡んできた。
おはようの前にソレか。
しくじったな、出勤には遅い時間だから知り合いには見られないだろうと思っていたのに。
イチャイチャとは行かないまでも、充分甘い雰囲気で伊万里と歩いていた自覚はある。
「ニヤけた顔」
呆れたようなトゲのある言葉に振り返ると、水原まで俺を見ていた。
「そう? ニヤけてる?」
などとそらとぼけながら、どうしても笑んでしまう口元を手のひらで撫でる。
「なーに、朝から女の子と手繋いでデレデレしちゃって。……彼女?」
「まあね」
「うわ、即答の上なんつーゆるんだ顔なんだ椿! 恥ずかしいやつめ!! あの娘、コーヒーショップの並びにある花屋の子だよな〜、いつの間にお近づきになったのよ〜」
「よく知ってるな」
およそ花屋とは縁のなさそうな望田の言葉に少し驚く。
「あそこのショップにフラワーオブジェ頼んでるじゃん、うちの会社。可愛くて華奢なのにすんごいゴツい花材抱えてスタスタ歩いてたりするから、ギャップに萌えよ?」
萌えるな、人の恋人に。
と、いうかそうなのか。
伊万里は俺の会社について何にも言ってなかったけど。
「最近こっちに来た椿は知らないか。あの二課の見城さんが彼女に誘いかけたんだけどスッパリ断ってたんで、一時有名だったの」
ああ、伊万里ならそうだろうな…。
同性から見ても仕事が出来てイイ男、ただし女グセ悪しな見城氏の顔を思い浮かべて脳内要注意リストにメモ。
「どーやって落としたのさ〜、けっこう狙ってるやついたんだぜ? 他にも」
……ほほう?
その辺り、ちょっと詳しく調べないといけないな。
頭の中で呟いて、望田にはシラッと言葉を返す。
「落とすも何も、小学校の同級生なんだよ。久々に再会して、まあ、そうゆうことになりました」
なんだそれ! 美味しすぎる!
と訳のわからないことを喚く望田は無視して、社員カードをゲートに通す。
ウカツにも俺は喧しい望田ばかりに気を取られていて、水原がじっと押し黙っていた、その意味に気づかなかった。
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