flowery flower
彼氏と彼女(3)
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「え〜〜、なんと言いますか、このたびメデタクくっつきました」
何でこんなことワザワザ言わなきゃならんのか、と自問しつつ、私は昨夜の顛末を店長に報告。
椿に言われたから、て訳でもないけど、出勤した途端瞳を爛々と輝かせた店長に取っ捕まり、どうなったのどうなったの! なんて、話すまで離さない勢いで詰め寄られてしまったのだ。
もー、なんで他人の恋愛話そんな好きなんですかー。
「だって淡白なイマちゃんの春よっ! どんなイケメンに迫られてもスッパリザックリ切っていたイマちゃんが、どんな顔して彼とラブってるのかちょー興味あるっ!!」
ちょーとか言わないでください三十八歳。
「あ、差別ぅー」
心の声読まないでくださいっ、エスパーですかっ?!
「ふふ〜ん、でもやっぱりそうだったんじゃない。あら? あたしもしかして二人のキューピッド!?」
やーだ、なにか奢ってもらわなきゃ〜、とスキップでも踏みそうなご機嫌加減の店長を横目に、私は疲れ果てていた。
「……何で今日はそんなにテンション高いんですか……」
「イマちゃんのラブパワーにアテられちゃったんだもん。自覚ないのね〜」
ら、らぶ……?
ニンマリ笑った店長は、コソリと私に囁きかけてくる。
「そんなに彼との夜、よかった?」
…………!!!
「な、ぅ、……ッがああああッ! セクハラですよ、店長っっ!」
間違いなく耳まで真っ赤になった私が恥ずかしさに悶えると、あらだってー、と悪びれる様子もなく、含み笑い。
「そんなピンクのオーラ出しといて。何にもなかったとは言わせないわよ?」
言いませんけど!
「あとでじぃぃぃっくり、聞かせてもらっちゃうからね〜」
うう……!
たすけて椿ーー!
その彼が、今現在社内で惚気トークを無意識に垂れ流していただなんてまるきり知らず、私はそんな叫びを東の方角(彼の会社がある)へ向けていた。
「じゃあイマちゃんとあの彼は幼なじみってワケなのね」
ふんふん、と頷きながら店長は私に対しての事情聴取を進める。
近所のベーカリーで買ってきたベーグルサンドをかじりつつ、私は首を傾げた。
「幼なじみってほどじゃ、」
何しろ、十二年間一度も会ってなかったし連絡なんてまさかだし、椿があの日偶然この店に来なければ再会もなかったかもしれない。
そう考えると不思議だなあ。
「あらでも彼の勤め先、ヒヨウでしょ? うちと取引してるし、ここで会わなくてもいずれその辺りですれ違ってたわよ。そういうのが運命ってモノじゃない〜」
きゃっと何故か店長が頬を染めて恥じらった。
「運命は大げさデスよ……」
自分でもそう思っていたことを棚に上げ、だけど他の人の口からそういう風に言われるとむず痒くなってしまう。
「だって、ずっと会ってないのに一目でわかったって、しかも彼も同じような気持ちだったって、もうこれはお互い運命の相手だとしか!」
握りこぶしで力説、何か店長、今日はいつにも増してテンションおかしくない?
「いるのよね〜、生まれたときから唯一無二のパートナーが決まってるひとって。多分もう、他の人じゃダメよ」
店長の力説の根拠がどこに有るのか分からないけど、最後の一言は自分でも頷くところだ。
――他の人じゃダメ。
そんな風に決めつけるのは良くないかもしれないけれど、椿が自分にとってそんな存在だというのは納得がいく。
あまりにも、彼が私の傍にいることが自然すぎて、逆が考えられない。
魂に馴染む、なんていうのは大仰すぎだろうか。
でもきっと、椿本人にそう言っても、馬鹿にしたりしないで、同意が得られるような気がする。
ニコリと幸せそうに微笑んで。
彼と、私が一緒にいることは最初から決められてたこと。
だったら嬉しいなぁとか思ってしまってる私は、充分色ボケていた。
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