――楠木茅乃様――
と、思いがけない人物から連絡を貰ったのは、彼とのゴタゴタが終わってしばらくしてからのこと。
今どき古風に手書きのお手紙。
まあ、メールアドレスも教えていないし(知られてはいると思うのだけど)、また直接訪ねてくるよりもマシだと思ったのかな。
花模様の便箋にきれいな文字で書かれていたのは先日の詫びと、良ければ友人になって頂けないかという真っ直ぐな問い掛けだった。
正直、その若さに照れました。
心情的には恋敵になる私に、どうして彼女が好意的なのか疑問も覚えたけれど、特に裏もないだろうしと(というか思いもしないだろう)、こちらも手紙で返事をして、文通すること数ヵ月。
先日旅行をしたお土産をお渡ししたいので、よろしければお会いしたいです、とあくまでも控え目なお伺いを立てられ、了承の返事を返した、その当日。
待ち合わせ場所へ向かうために、仕事を終え学園を出た私を呼び止める可愛い声があった。
茅乃さんに会いに来たの、と頬を染めてはにかむ美少女、古賀さんちの朔耶ちゃんだった。
待ち合わせがあるからどうしようかしら、と思案したものの、今までにも彼女の「お茶しましょう」や「お買い物したいの」とのお誘いを、とある暁臣くんの横やりにより断り続けた私は、いささか弱い立場。
それに、親戚なんだから知らない相手でもないだろう、と一緒に出掛けることにした――のだが。
待ち合わせ場所のカフェに着いたとたん、私は後悔するはめになった。
***
「どぉして千鶴ちゃんがいるの」
先程までキャッキャとはしゃいでいた朔耶ちゃんが低い声を出す。
もちろんそれを聞いた千鶴さんはムッと眉をひそめて。
「それはこちらの台詞ですわ。どうして朔耶さんがいらっしゃるの」
朔耶ちゃんの態度と、はじめて聞く千鶴さんの冷ややかな声に、しまったと思ったときは遅かった。
「茅乃さんと待ち合わせしてる相手って千鶴ちゃんだったの!? いつの間に知り合ったの、油断もスキもないっ!」
「相変わらず騒がしい方ね。児童ではあるまいし、公共の場所で大声出すなんてはしたないことは改められたら?」
「きぃ! それって小学生差別だし! 子どもがみんな騒ぐ生き物だって決めつけるのよくないし!」
「あら、ごめん遊ばせ。そうですわね、騒がしいイキモノは朔耶さんだけでしたわね」
………。
顔を会わせるなりの口を出す間もない応酬に、この二人仲悪かったのかー! とひそかに頭を抱える。
朔耶ちゃんも千鶴さんもお嬢様でふわふわしているかと思えば、なかなかどうして。
ある意味お嬢様らしく口論する二人においてきぼりにされた私は、そっと距離を置いて席についた。
「何のつもりか知らないけどっ、茅乃さんは、茅乃さんは私のお義姉さまなんだからー!」
テーブルをバシバシ叩きながら、朔耶ちゃんがよくわからない主張をすると、
「そんな暁臣さんがいないと成り立たない関係。私はちゃんと個人で茅乃さんとお友だちなのですもの」
つん、と顎をそびやかして千鶴さん。
恐々注文を取りに来た店員さんに、自分の分のお茶と朔耶ちゃんのケーキセットを頼みながら、私の仲良しを主張しあう可愛子ちゃん二人に、(申し訳ございません私が悪うございました)と呟きながらメニューを閉じたのだった……。
**一方、その頃の暁臣**
暁臣は警護の者から送られてきた画を前に、頭痛をこらえるように額を押さえた。
『――だいたい今日はわたくしと茅乃さんとのデートでしたのよ、朔耶さんたら邪魔なさらないでくださらない?』
『お邪魔ムシは千鶴ちゃんだし! 茅乃さんは古賀家のお嫁さんだしっ』
『あら、暁臣さんがプロポーズなされたと言う話はうかがっておりませんもの。勝手に決めつけるのは良くなくてよ』
『してないけど、もう決まってるんだもん! もう、ヘタレ兄のばかああああ!!』
自分の恋人を間に、何故か彼女を取り合う親戚の娘と妹。
「いかがなさいますか、暁臣さま」
「…………回収させて、してくる……」
とりあえず妹担当の従弟を呼び出すために、内線を押した。
終。
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