T. How came it to be so?
▼ 05. 彼の術策
晶子の肩が跳ねる。
飾りのないやわらかな耳に、宇都木はそのまま舌を這わせた。
自分の腕の中でビクビクしている彼女は、なるほど、物慣れていない。先ほど並べ立てた個人エピソードの通り、今まで異性との接触はまるでなかったらしい。
女性というより娘。娘というより少女。
成人を過ぎていても、どこか幼い印象があるのは、本当の意味で大人になりきれていないからだろう。
本来なら、彼の食指が動くはずもない相手だった。
しかし。
「やっ……、う、宇都木さ、あああのっななななっ……!?」
小動物のような彼女はパニック体質でもあるらしい。
グルグルと思考の海にはまると回りが見えなくなる。突発事態に弱くて、支離滅裂になる。
だが、顔にはその感情の振れが思いきり出ていて、何を考えているかわかりやすい。
つついて反応を見たくなる生き物だ。
片側に流された髪を避けて、滑らかな首筋に唇を這わせた。
拘束するように回した腕に、円い女の身体を感じる。
「……宇都木さんっ!」
真っ赤になって震えているのに、宇都木を抗議するように睨んでくる、その潤んだ瞳に――嗜虐心がそそられた。
『――わたしが思うに、きっと貴方にはあのこの方が向いてるわ』
蜜を含んだような女の声が宇都木の耳に蘇る。
まるで予言者のように、根拠のない自信に彩られた仕草、まなざし、その声音。
魅力的な女だったが、確かに、そういう意味で何らかの感情を覚えることはなかった。
それならばよほど――
「ふ……!?」
何事か苦情を申し立てようとしたのか、息を吸い込み言葉を発しようとした彼女の唇を、彼は自身のそれで塞いだ。
目を見開いたまま、晶子が呆(ほう)ける。
甘い言葉をささいて、蕩けさせてから与えても良かったが――それでは面白くない。
そのまま侵略を開始した。
「……?! っむ……ん、んー!」
様子を窺いながら、舌先で戯れる。されるがままにしゃぶられていた口腔が抵抗を示して、絡めた舌が彼を押し返そうとする。驚きから確認に移った晶子の思考が、手に取るようにわかった。
慣れない娘が返す反応は、欲を誘うものではなかった。が、却ってそれがいい。
唇に笑みを掃いて、宇都木は晶子へのくちづけを、奪うものから教えるものに変えて行った。
「……っふぁ、んう……ん……っ」
片手で後頭部を包み込んで押さえ、いやいやをする彼女を封じて、音を立て、食み、吸いたてる。
萎縮して逃げる舌を捉え、柔らかく撫で擦る。甘く噛んで、呼気のリズムを図った。
色付きのグロスをつけただけの唇は、無垢でやわらかい。
申し訳程度のメイクしかしていない肌は、その分手入れを怠っていないのか、滑らかに保たれている。
色白は七難隠すと言うが。この肌のさわり心地だけでも、十分良いものだ、と分析した。
頭の芯が痺れるように醒めていく。
熱がなくなるのではなく逆に高まるからこそ、冷静になるのは宇都木の常だ。
初な反応を楽しみ尽くしてから、宇都木は晶子を解放した。
彼にぐったりと身を預け、忙しない呼吸を繰り返している娘の曲線をなぞると、怯えではない震えが指先に伝わる。
クス、と微笑って細い身体を持ち上げた。
小さな声を上げて、我に返った晶子が暴れる。混乱しきっていても危険な状況にあることはわかるらしい。
当たり前か。
「そんなに暴れると落とさないけど、落とすよ?」
穏やかな声音の中の本気を感じ取ったのか、ピタリと晶子の抵抗が止む。
驚いて固まっただけかも知れない。しかしここで抵抗を止めると、更に不味い状況になると理解していないのだろうか。
しっかり教えておかないと。
晶子にとっての危機を招いている当の本人がそう思案しつつ、彼は彼女を寝台まで運んだ。