At a wedding #3
 
「お姉ちゃんはね、自分が童顔なの気にして可愛い格好避けてるけど、その童顔を活かしてこそだと思うの、茜は」
 姉の心を抉る台詞と共に、妹はガブリと残ったケーキに食いついて、口をモゴモゴさせながら何枚かの写真を抜き出す。
「あかねのおすすめはこえ」
 これ、ね。食べてから喋りなさい。
「まああ可愛いわー!」
 目にしたとたん伯母様が声を上げる。お母さんはその生暖かい目やめてください。
 あたしは激しく首を振る。
「ちょ、これは無理、無理だってば!」
「あのねー、持ってきたのは一枚だけだけど、おにいさんってばこのタイプのたくさん撮ってたの! 好みがわかるよねっ」
 あたしの制止の声は無視し、どんどん茜は羞恥プレイものの写真を抜き出し並べていく。
 横で眺めていた社長が「ほほう」と頷いた。
「お人形さんみたいだのー」
「かっわいいよね!」
 茜曰くの『フミタカさん好みのドレス』は、嫌がらせかと思うくらい、フリルやお花やリボンやレースがふんだんに使われ、デコレーション的に盛りに盛られたものばかり。
 デコデコドレスと内心であたしが呼んでた一連だ。
 それら全ての写真の中に、カメラを持っている相手に向かって、威嚇しているあたしの姿を見ることが出来ます。
 嫌だって言ってるのに結局押しきられて最後にはピンクも着せられたもんな。
 まあ、光沢があって落ち着いたピンクだったから、そんなに拒否反応もなかったけどさ、フミタカさんのニヤけた顔がとにかくムカついたんだよ。
「この薄い緑……シャーベットグリーンっていうのかしら? これもいいわねぇ」
「お母さん赤もいいと思うんだけど」
「茜はやっぱりピンクなの!」
「この辺も可愛らしいのぅ。ワシは青が好きじゃー」
 みんなして好き勝手に言ってくださるが、それ全部デコデコドレスじゃないか!
 ちんどん屋になる気はない! と言っても無視され、じゃあ次回の衣装決定の時にこれらをもう一度試着をしてみましょう、と意見の一致をみて、その日は終わった。
 試着してみましょうって、するのはあたしなんだけど。
 孤立無援の状況に勝てる術は、皆無だった。


 フミタカさんが帰宅してのち、その日の一部始終を語ったところ、爆笑が返ってきてあたしはむくれた。
「そのときのお前の顔見たかったなー」
「笑い事じゃないんだよ、社長までノリノリで『いっそのこと全部着ちゃうか?』なんて言い出すし! 二回でも多いっていうのにさっ」
 式の和装と合わせたら実質三回あるんだよ、お着替えは!
 フミタカさんは、四人それぞれがピックアップしたドレス写真を見ながら、ニヤリと唇を曲げる。
「みんないいの選んでるな」
「……そりゃドレスだけ見たらいいのだけど」
 問題はあたしがそれを着るってことにあるのだと、何度言っても無視されるのは何でなのー。
 ソファに座ったフミタカさんの隣に移動して、進行具合を報告する。
「二次会は千葉ちゃんが『きっちり仕切ってあげるからお任せあれ!』って。BGMはドレスの最終確認のときに渡しておくから。進行表のチェック、よろしく」
 お祭り屋の同期の名前を出して、あたしは作っておいたプログラムをフミタカさんに渡した。
「招待客リストは?」
「うちのはオッケー。新郎側は社長と室長に確認してもらったよ。フミタカさんも見ておく?」
 招待客について、ちょっとした隠し事をしていたあたしは、内心ドキドキしながらフミタカさんに訊ねた。たぶん大丈夫だろうと思ったとおり、フミタカさんは構わないと頷く。
「いや、その二人が確認してるならいい。あとはなにかあったか?」
「んーと、みどりちゃんが司会引き受けてくれたし、余興関係の確認とか手伝ってもらってるから……大丈夫かな?」
 それはそれで心配だ、とみどりちゃんと角突き合わせる仲のフミタカさんは微妙な表情になる。
「――結局、最後はお前に任せきりになったな。すまん」
「しょうがないですよ、『副社長』。社長がアレだから、専属のあたしは時間ができたし……?」
 副社長の椅子に就いてから、いっそう時間がなくなったフミタカさんは、あたしの言葉にムッと眉を寄せた。
「……俺の時間がなくなったのは、伯父が自分の仕事まで押し付けてきたせいなんだが?」
「うーん、どっちもどっち?」
 社長が仕事をすれば社長専属秘書のあたしは忙しくなるけど、フミタカさんに時間ができる。
 今のように、社長が必要最低限の仕事しかせず副社長に業務を押し付け……もとい任せると、専属秘書のあたしの手の空く時間ができる、でもフミタカさんが忙しくなる。
 なんてアンビバレンツ。
「あ、あとちょっとだし! 大丈夫だって」
 もう準備のほとんどは済んでいて、リハーサルと新郎新婦のコンディションを整えるのみだし。
「窶れないようにね、フミタカさん」
 睡眠不足で肌の張りが衰えたような気がする旦那(予定)の顔を両手で擦って、栄養価の高い食事のレシピを考える。
 あたし? あたしはエステも行って栄養も睡眠もばっちり摂ってますから。
「お前も観念してドレス選べよ」
「ううっ……」
 視界に入った写真の、デコデコドレス着用姿から目を逸らす。
「俺やみんなが何を言おうが、お前が好きなものを着るのが一番なんだぞ」
「……選んでも却下するくせにー」
「『無難』や『アレ似合わないからコレ』で選んだものなんか、駄目に決まってるだろ」
「うー……!」
 その通りすぎて反論できず、あたしは口を閉ざした。

  
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