At a wedding #2
 
「でも最近の子はいいと思いません? こんなにたくさんのドレスの種類なんてなかったもの」
「白無垢が基本でしたものねえ」
「うちは貧乏でしたから予算が足りなくて、いろいろと古着や借り物で何とかお式を挙げたんですよ。いいなあ、ウェディングドレス。私たちの年代、一種の憧れだったわぁ」
「ちょうど教会式が流行り出したころでしたわね」
「そうそう、ロイヤルウェディングがあって!」
「お姫様に憧れるのは女性の常ですもの」
「ねえねえおじ様、おば様と駆け落ち結婚したってホントですか? 情熱的っ、素敵ッ」
「いやいや、照れちゃうなあ」
「そこんとこ詳しく! おにいさんに聞いてもなんだかはっきりしなくてー! 茜、ヨッキュウフマンなの!」
「いやいや、女の子がそんなこと言っちゃいけないよ」
 ドレス写真を覗き込み脱線してゆく母と義母(予定)、天真爛漫とは聞こえの良い宇宙人ぶりを見せる妹と義父(予定)の会話が部屋を飛び交う。
 カオス……! カオスすぎる……!
(フミタカさーん! 助けてええこっから連れ出してええええ!!)
 きっと今頃は眉間に皺寄せてお仕事中であろう婚約者を呼ぶも、電波は届かなかったようだ。
 そもそも誰の何の用件で社長宅にやって来たのか、本人さえも忘れそうになる。
 実家と婚家の家族が仲良いのはいいことなんだけど、いいことなんだけど……!
 普通の仲良しとはちょっと何だか違うような気がするのは、あたしの気のせいじゃないと思う。
「それで、決まりそうかい?」
 子どもの興味が移るのは早い。ご自宅シアターから恋バナ、そして今はお手伝いさんが持ってきたケーキに釘付けになって目を輝かせている茜を微笑ましく見守っていた社長が、くるりと振り向きあたしに訊ねた。
 それがですね。この間実家で何着か絞ったから、簡単に決まると思っていたのですが、母たちの暴走が激しく、いまだ自分が何を着せられるのか謎であります。
 そう遠い目をしていた横から、伯母様が何枚かの写真をテーブルの上に並べ出す。
「式は和装だから、披露宴で入場のときはやっぱり白のウェディングドレスでしょう? このあたりが素敵ねって」
「史鷹くんはこれがいいんだけど、って言ってましたよー」
「あら、じゃあ白は決まりかしら」
 選んだ中の、更に一枚を指して母が付け加えた言葉にあたしは目を剥いた。
 って、フミタカさんいつの間に根回ししてたのっ!
 母が示し、みんなが覗き込んだ写真のドレスはプリンセスライン。
 ビスチェ部分に光沢のある糸で細かな刺繍が施されていて、腰から下はオーガンジーのプリーツが何層にも重なり、スカートをふんわり包み込んでいる。生クリーム過多なショートケーキみたいだと思ったものだ。
 スカート部分がふわふわしていて可愛いんだけど、可愛すぎて、ドレスに着られちゃって途方に暮れているあたしが写っています。
 みんなしてカワイイカワイイと誉めてくれるけれど、ホントに身内の欲目って怖い。
 カワイイがゲシュタルト崩壊しそうだよ!
 あたしだって、(いいな、可愛いな)と思いはするものの、それを自分が着るとなると柄じゃなくってためらってしまうのだ。
 なので、つい目線を逸らしてしまう。
「えー……、それはちょっとあたしには可愛すぎるっていうかー……」
「じゃあお姉ちゃんはどれがいいの?」
 当たり前のように二個目のケーキに手をつけていた茜が、不満げに訊ねてくる。
「えーと……コレとか……?」
 フリルやお花やリボンといった装飾が省かれたエンパイアスタイルの一枚を指す。落ち着いてていいと思うんだ。
 ――しかし。
「きゃっか!」
 パッキリした妹の声があたしの曖昧なお伺いを切り捨てた。
「そうねぇ、これも素敵だけど、せっかくの晴れの日だもの、もっと、ねぇ」
「あんた自分が似合うもの、わかってないわねー」
 ……三人からダメ出しを食らいました。
 社長はニコニコとやり取りを眺めるのみ。余計な口出しはしません、さすがの処世術ですが、今ばかりは空気読めないスキルを発揮してほしかった……

  
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