At a wedding #1
 

 ――ご無沙汰しております、隊長。
 最近は私めもめっきり落ち着き、隊長どのを煩わせることも少なくなっておりましたが、久々に、よろしいでしょうか。
 どうしてこうなったでありますかーーー!!
 ソファにぐったり身体を沈み込ませたあたしは、すっかり陸に打ち上げられて数時間たった魚の目になっていた。
 そんなあたしをよそに、楽しげな会話が頭上を飛び交う。
「まあ、こちらも素敵! 逸子さん、どう?」
「ああそれ! 私もいいなーって思っていたんですよ! ホントに、着るのがこの子じゃなければねぇ……」
「鈴鹿さん可愛らしいじゃない」
「芙沙子さん甘い! この長いリボンはじっとしていてこその華なんですよ。写真だから良い感じに見えるけれど、落ち着きのない鈴鹿だとあっちこっちに引っ掻けて台無しになること請け合いですって!」
 あとうちの子見事な寸足らずですからねー、これはやっぱりスレンダーで背の高い娘さんに着ていただかないと!
と、実母ゆえの遠慮のなさで、母は娘をこき下ろしてくれていた。
 あたしの背がちっこいのはお父さんとお母さん両方に似たんだよ! 遺伝子この野郎っ。「体格も風格も立派な史鷹くんの隣に並ぶと、ちんまりし過ぎてるから、逆にそれこそ落ち着きのないドレスにしたらいいと思うんですよねぇ。これとか」
「あらー、可愛い!」
 やっぱり失礼なことを母は言いつつ、写真の山をかき混ぜて、目当てのものを見つけ出すと伯母様に示して見せる。
 青系の素材をふんだんに使って布を重ね、花びらのような襞とフリルを作り、スカート部分が丸いフォルムになっている遊び心のあるドレスだ。見えるか見えないかというバランスでイエローが差し込まれているのがポイント。
 スーパーボールみたいだなとフミタカさんも違う意味で喜んだ一品です。跳ね返るよ!
 ……もうどうにでもしてくれ。
 きゃっきゃとはしゃいでドレス写真を眺めている二人を眺めつつ、あたしは生暖かい笑みを浮かべた。
 仲がよろしくて結構なことです。
 花嫁そっちのけで盛り上がる母親たちだが、会うのは今回が二度目だというのに、以前からの友人同士のように会話を弾ませている。
 思うに、うちの母が馴れ馴れしさギリギリの親しさをあらわにするから、夫人もつられてしまっているんだろう。
 こっちは失礼がないかハラハラなんだよ!
 本日は、来生家にご訪問。
 披露宴の規模が少しばかり大きいため、あたしのお色直しは二回。実質、式と合わせて四着をお着替えするわけですが、結婚のことなど何にも考えていなかったあたしが一人で決められるわけがなく、母と妹、フミタカさんの伯母様の出番と相成った。
 お色直し用のドレスを選ぶにあたり、伯母様の意見も取り入れてほしいというフミタカさんのお願いで社長宅にお邪魔しているんだけど、余計なオマケがくっついてきた。
 はい、もうおわかりですね。遠慮の欠片もない我が母と、それから――
「すっごい! お姉ちゃんすっごい! 大画面シアターだよ、おうちの中に! 茜、あとで映画観たーい!」
 来生社長の腕にぶら下がり、興奮しきりの我が妹が叫びながら部屋に戻ってきた。
「茜ちゃんが好きそうなものあったかなぁ。用意させようかのー」
「大丈夫よ、おじ様! 茜、ロマンチックでもアクションでもB級ホラーでも大好物だから!」
 うあああなんだその『よそのおうち? ナニソレ美味しいの?』と言わんばかりのなつきようは!
 社長がニコニコしているのだけが救いです。
 子ども、お好きですものねー……すみません! 図々しい身内ですみません!
 フミタカさんが見たら失笑しそうなくらい、いつもとは逆の立場になってあたしは母と妹のフォローに回る。
 不愉快だったら気遣わずにハッキリおっしゃってくださいー!
 伯母様と女子高校生のノリでドレスをああでもないこうでもないと吟味している母、あんたそれ小悪魔モードに入ってないかと疑わしく思ってしまう妹を前に、あたしはHELPを叫んだ。
 隊長、たいちょー! 救援部隊を寄越してくださいー!
 しかし都合よく助け手などが現れたりするわけもなく、引き続きこの場は木内家女性部隊の独擅場。
 無理やりにでも、ストッパーになりそうな遼太を連れてくるんだったと思っても後の祭り。
 どうしてこうなった。

  
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