At a wedding #27
 

「フミタカさん」
 しっかり抱き込まれていた身体を離して、眼鏡を外した彼の顔を覗き込む。
 出会った当時は、この顔に密かにドキドキしていたものだけど、慣れちゃったのかな。
 ううん、顔そのものよりも、愛撫を中断された形になった不満そうな眉間の皺とか、眇めた眼差しとか、キスを返すと緩む表情とか――そちらのほうに、ときめくようになったんだ。
 あたしがすることに反応してくれる全てが愛しいの。
「すず?」
 検分するように見ていたことがバレたのだろうか、問い質すような声音に一つ瞬きして、あたしは口を開いた。
「フミタカさん、幸せ?」
 唐突な質問に、フミタカさんの目が見張られる。
「――お前は?」
「ちょお幸せ」
 あたしのおバカっぽい答えに目元を和ませて、笑う。
「なら、俺もだ」
 こちらに追従するような言い方はズルイと思うのよ?

 ナイティに手をかけたフミタカさんが脱がせにくいな、と文句を言う。
 さっきはニヤニヤしてたくせに。
 伸びない素材だからね! おしゃれ重視っぽいからね!
 着たままするかとかふざけたことを言う彼をペチリと叩いて、自分でも身体を捻ったりして協力する。
 脱がされるたびにワーキャー言っていたのに、あたしも成長したものよ……いや、教育されたのか?
「お前、こういうときに余所事考えるの変わらんな」
 集中しろ、と唇を食まれる。
 余所事考えるのも照れ隠しの一貫だと思ってよ。
 視線を向けられるだけで熱が上がってくるの。
 輪郭を辿るような目線に、触れられていなくても感じてしまう。
 慣れたといっても、フミタカさんの眼差しは充分凶器にもなり得るってこと、自覚していてほしい。
 ゆるゆると肌の表面を撫でる手の動きに、無意識に力んでいた身体の力が抜けていく。同時に、別のところから沸き上がるもの。
 されるままだったはじめてのときとは違って、応えることも覚えたのに、いつまでたっても、フミタカさんが優位には代わりないんだろうな。ほんの少しの悔しさを滲ませて、あたしは滑り込んでくる舌を噛んだ。
 こんなちょっとした反抗も、彼にとっては子猫のパンチほどの痛みもなく、逆にお仕置きされてしまうわけで。
 汗の浮いた胸元を唇が滑って、ふくらみを食みながら色づいた頂きを舌先でくすぐってくる。もう片方の乳房は大きな手のひらに包まれ、柔い刺激を与えられる。
 息が弾む。
 もう少し、もうちょっと強い痛みがほしいのに、与えられず、もがいて足でシーツを掻いた。
 こちらから欲しいと言わせるために、ゆっくりと官能を高めて、フミタカさんはあたしを焦らす。
 その余裕がカチンと来るんだってば。
 悪い癖だと理解しながらも、むくむくと盛り上がってきた負けん気に逆らわず、あたしは反抗を開始した。
 足にちょうど当たった彼の熱を膝頭で刺激して、両手で胸のあたりにある頭を抱き抱える。むぎゅっと胸に押しつけるように。
 巨乳には全然足りないボリュームでもそれなりに顔を挟むことくらいできますもの〜。
 くぐもった文句が聞こえたが無視だ。
 ――あっ、なんか不穏な気配!
「いたっ」
 がぶりと肉を噛まれて声をあげた。ぎゅっと強く吸われて、鬱血ができたと思われる痛みに、フミタカさんの髪を引っ張る。
 顔を上げたフミタカさんが物騒な笑みを見せる。
「……イタズラしてる余裕があるなら、たっぷり可愛がってやろうな?」
 ぎょえー。
 結構です、というあたしの拒否の言葉は、口腔に突っ込まれた彼の指に阻まれた。
 指の腹がぬるりと舌を滑る。指がキスのときと同じ動きを見せて、口の中を捏ねたかと思うと、もう片方の手が腰を撫でて下肢に移り、内股に差し込まれる。
 濡れが足りないとか余計なこと言わなくていいからー!
 いっぺんは卑怯だと思うの! 体格差をこんなときに利用しないでほしいの! 経験値が尋常でなくあるのはわかってるから、その手腕をおおいに発揮しないでください!
 と、心の中では盛大に喚いていても、実際のあたしは言葉にならない声を上げ、首を振るだけ。
 唇と、弱い胸の先と、足の間に執拗な愛撫を施され、呼吸が苦しくなるまで責められる。
「……あっ、っあ、だめ、それ、やっ……」
 散々になぶられ痺れた舌で、呂律の回らない拒否の言葉を紡ぐ。
 もちろんフミタカさんがあたしの言うことなど聞くわけもない。
 下腹部に頭を埋めたかと思うと、中を掻き乱す指はそのままに、腫れて敏感になった粒に舌先を這わせてくる。
 小さなところに与えられる小さな刺激なのに、全身に電気が走ったようにあたしの体は跳ねた。
 気持ちいいか、なんて訊かれても答えられない。
 自分でもわかるくらい熱をはらんで潤んだ襞を舐められて、弄られて、根を上げて泣き出すまで『可愛がられ』る。
 た、たまには有言不実行でもいいんだよぅ……!
「うぅ……フミタカさんの、ヘンタイ……」
 ゼイゼイとこっちは息も絶え絶えだというのに、準備運動が終わったくらいの熱っぽさを保ったフミタカさんが「お前体力落ちた?」などとムカツクことを言う。
 オッサンのくせにフミタカさんが体力ありすぎるんだよ!

  
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