取引先からの祝福の言葉、新婦の幼馴染みたちによる合奏、新郎友人のスピーチを経て、トリを努める同期有志一同が進み出た。何やら黒い布を被った数人と、プロジェクターをセッティングする神代に、首を傾げる。
予定では、歌の余興のはずだがどうも様子が違う。
さてはサプライズか、と身構える間もなく、神代さんがマイクのスイッチを入れた。
ムーディーな音楽と共に、照明が落とされスクリーンに午前中の結婚式の写真が移し出される。
ババーンとファンファーレが鳴り響き、題名がデカデカと浮かび上がった。
『史鷹&鈴鹿・愛の劇場』
「ちょ!?」
仰天した声を上げる新婦と咳き込む新郎をよそに、神代がシナリオを捲った。
『――新郎と新婦が出逢ったのは、七年前の春、まだ新婦が初々しいセーラー服姿の頃でした』
カシャリと音がして、目の前のスクリーンに紺色のセーラー服、お下げ髪の鈴鹿が映る。
あたしの喉から妙な声が漏れたが、ストーリーは構わず続く。
『一方新郎は大学卒業後勤めていた会社を退職し、現在の義父でもある伯父が経営する来生商事に入社する準備中でした』
今度は面差しに若さを残したフミタカさんが映った。
『“おつかいは済んだか、中坊”』
『“中学生じゃなーい!”』
スクリーンの下方で、あたしたち二人を模したパペットがチョコマカと動き、作り声で台詞が当てられる。
『同期入社の二人は、こうして出会い、想いを深めていったのです――』
説明口調な重々しいナレーションと相反するコミカルな動きのパペットが、物真似声と共にキャアキャア騒ぎながら、新郎新婦の出会いから結婚までの歴史を語る。
同期有志による余興に、新郎新婦以外のものは盛り上がり、あたしたちは頭を抱えたり耳を塞いだりと苦悩していた。
「やめてええええなんなのこの羞恥プレイ!」
「……なんかコソコソやってるなーと思ったんだよ……」
フミタカさんは、シレッとした顔で台本を読み上げる親友を睨んだが、神代さんは全く意に介さない。
二人の馴れ初めを知る者は笑いをこらえ、知らない者は興味深げに劇を眺める。
ストーリーは事実を含みつつ脚色まみれに進み、パペット史鷹が追っかけっこの末にスライディングタックルでパペット鈴鹿を捕まえてプロポーズの場面で幕が下りた。
拍手喝采を浴びて観客に向かって一礼する仲間たちを、あたしたちは恨めしく見つめる。
写真と人形劇を組み合わせた余興に、「なんという芸達者!」と褒め称えたいところだが、いかんせん自分たちの話だ。
半分以上演出が含まれているとはいえ、たまに混じるリアルがとてつもないダメージを与えていた。
ちなみに嫌がれば嫌がるほど、劇が真実味を持って他者に受け取られることにあたしたちはまだ気づいていない。
「勘弁してえええ……」
「あの演出じゃ俺が単なるロリコンみてえじゃねぇか……」
込み上げる笑みが押さえきれないといった様子の演者が、高砂に歩み寄り、あたしたちに向かって恭しく新郎新婦パペットを捧げる。
バラバラと鳴る拍手が再び大きくなり、目の前にぐんにゃりと座った自分たちの人形を、なんとも言えない顔で見つめたあたしとフミタカさんは、ため息をつき、それぞれの手にそれぞれの人形をはめた。
そうして立ち上がり、皆様の期待に応えるべく人形同士に誓いの頭突きをさせながら、やけくそ気味の「ありがとうごさいました!」を叫んだのだった。
『――ここでしばらくの間、新郎新婦はお色直しのため席を中座されます。みなさま、あたたかい拍手でお見送りください』
パペットをつけたまま手を繋ぎ、どことなくふらふらした足取りで新郎新婦は退場する。
拍手の合間に笑いが含まれているのは気のせいではないだろう。
『新郎新婦を待つ間、本日の午前に行われました結婚式の映像をご覧くださいませ』
みどりちゃんの笑いを含んだ声が、次の進行をアナウンスする。
(知ってたなら教えてくれたっていいのにみどりちゃんてば……)
あたしは閉まった扉をジトリと睨んだ。
「もおぉ、しばらく取引先の人たちにからかわれるよぅ〜」
「なんかスッゲエ生暖かい目で見られた気がするんだが……」
「みんなもあんなところでコンペの成果を見せなくていいのにっ!」
躁鬱に騒ぐあたしたちを苦笑いのスタッフさんたちが宥める。と、向こうから難しい顔をした筧さんが「ちょっといいか」と手をあげたるのが見えた。
隣には山と積まれた祝電を持つ、いち子さんがいる。
彼女も困ったように眉を下げていた。