At a wedding #14
 

「まあ、なんだ、これがうちの嫁です」
「ご紹介に預かりました嫁です。以後よろしくお頼み申しあげます」
 ぴょこんと跳ねるようにお辞儀をした悪友の花嫁に、錦野は唇に笑みを刻む。
 なんというか、おかしい具合に息の合ったやり取りで、『ああ、史鷹の嫁さんだ』と納得してしまった。
 史鷹と並ぶと対比でさらに小柄に見えるが、対峙してみると負けないくらいのパワーを感じる。
「嵯峨さんはこないだぶりですー。ええっと、平生さんと錦野さんですよね?」
「そっちの派手なのが平生で、普通なのが錦野」
 好奇心いっぱいの声で、夫の友人たちを見上げた新婦に、新郎が補足の紹介する。
 彼女は丸い目を瞬かせて、もう一度彼らを眺めると、一つ頷いて「よし覚えた」と一人ごちた。
 新婦にあれこれと話しかける嵯峨と平生を眺めていると、「おい」とサックリ刺すような冷めた声が投げ掛けられる。
 錦野のよく知る顔をした新郎がこちらを見ていた。
「お前何ビクビクしてんの?」
「……今日のお前は気持ち悪い……嫁さん溺愛しすぎだろ」
「失礼な奴だなー。溺愛で悪いか」
 投げやりに答えつつノロケめいた台詞を吐く悪友に、錦野は身震いした。
「だからそれが気持ち悪いの! そういうこと言う奴じゃなかっただろ! よいか悪いかで言ったらいいことなんだろうけど気持ち悪い!」
「シメるぞ」
 以前の史鷹は徹底して割りきった関係ができる女としか付き合ってこなかった。
 付き合っている間は、女が望む理想の恋人として振る舞っていたが、それは仮面でしかなく、本当の意味で彼に触れる者はいなかった。
 自分たちの前での姿の方が、ずっと素のままだった。
 他人を拒む冷たい殻をまとって、コイツは一生作り笑いを貼り付けていくのかと、余計ながらも心配していたのだ。
 何を話しているのか、新婦が笑い声を上げる。つられたようにふっとそちらを見やった史鷹が、彼女を視界に納め、瞳を和ませた。
 やっぱり気持ち悪い。――でも。
「……史鷹、幸せになれそうか?」
 自分の心配なんて、余計なお世話なんだろうが、それでも、なんだかんだと自分たちの大事な友人ということに代わりはない。
 幸せに背を向けていた少年時代知っているからこそ――、蛇足とわかりつつも、訊いた。
 錦野の問いかけに、史鷹は破顔する。
「アイツが意地でも俺を幸せにしてくれるからな」
 こちらを見た新婦が、彼の笑みを認めて、照明が一段階明るくなるような笑顔を弾けさせる。
 なんの曇りもない笑顔に、燻っていた不安は消え去る。
 そうして、錦野もやっと素直に「おめでとう」を言えたのだった。

  
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