すっかり上がっている叔父さんに「頑張れ頑張れ」と心の中で拳を握り、慣れているのか意外と聞き入らせる丸川会長のお言葉をありがたくちょうだいし、主賓祝辞が終わると次はウェディングケーキの出番です。
運ばれてくるケーキにわくわくが隠せない。
あたしとみどりちゃんはアイコンタクトを交わした。
『それではここで、ウェディングケーキの入刀に入らせていただきます。両家ご両親様、どうぞ前へお進みいただきまして、お二人の姿を見守りください』
あらかじめ言っておいたので、うちの両親は戸惑うことなくこっちへやって来る。来生夫妻はいいのかな、と一瞬顔を見合わせ、だけど木内父母がもう足を進めていたので、同じように進み出てきた。
うんうん、そのままそのまま。
『カメラをお持ちの方々も、前へお進みになりお二人の晴れ姿をお納めください』
あたしがこの結婚式で何よりもこだわったのは、ドレスでも演出でもなく、料理だったりする。
なんせ、美味しいものは正義! がモットーですから、当然妥協はしなかった。時間がないながらも試食しまくって、メニューを決めたのだ。
他のこともそれだけ熱心に取りかかれよと突っ込まれたけど、あたしの食い意地が張ってるのは今さら。
問題は、主役である新婦が宴の間はほとんど食べられないってことだよね……。くやしいー!
丸く段々に積まれた土台に真っ白なクリーム、マスカットをメインにブルーベリー、キウイフルーツが飾り立てたケーキは、シンプルながらも白に緑が映えて綺麗可愛い。一番てっぺんには飴細工の王冠。
これ、全部丸ごと食べられますよ! 後ほど皆様にもお配りいたします。
司会の薦めで写真を収めにいらっしゃる皆様に笑顔を振り撒き――というか照れ笑いがずっと顔から剥がれてくれないんだけどさ。
ええい、フミタカさんのニヤケ顔と共に撮るがよい!
シャッターチャンスということで、ナイフを手にしたまま右向きやら左向きやらとポーズを取ってようやく入刀に入る。
『お二人が夫婦となって初めての共同作業となります』
緊張ではなく興奮で言うことをきかないあたしの手を、フミタカさんが包み込むように握って、ケーキにナイフが差し込まれる。共同作業というより操り人形だよ。
いつでもどこでもどんなときもそつのない旦那さんはさくさくとケーキを切り取り、用意されたお皿に載っける。
披露宴序盤のお約束、ファーストバイトです。
甘いもの苦手なフミタカさんにはなるべくスポンジのところを。
差し出したケーキを神妙に見つめたフミタカさんは、実は葡萄も苦手だったらしい。ワインは好きなくせに。
このケーキに決まってからそれを打ち明けられて、「早く言ってよ!」と怒鳴ったあたしは悪くない、たぶん。
「どっちにしろ甘いのが苦手には代わりないから、お前が好きなの選ばせたかったんだよ」なんて言ってたけど。わかってたらもうちょっと考えたのに。フミタカさんが好きなミカン使うとか……。
悪のりした皆様の『ハイ、アーン☆』コールに合わせて口に突っ込んでやる。
お返しなのか、フミタカさんが差し出した一口には多いケーキは、花嫁にあるまじき大口で食らってやったともさ!
どっと笑いが弾けたけれど、おおむね、あたしらしいと受け取られたようだ。
……それはそれでなんていうかさ……。
(でもやっぱりおいしいーしあわせー)
ハムスターのように頬を膨らませ、もむもむ咀嚼していると、唇の端に付いたクリームをフミタカさんの指先が拭い取る。
それはいい、それは。またお子様扱いして、とは思うが欲張ってクリーム付けたのはあたしだし、しょうがない。
――だがしかし、なぜその指を舐めるのだあああああ!
みんなの目が! みんなの目が生暖かすぎる! 特に同期! “まあアンタたちだからね”って目はやめてえええ!
フミタカさん、これ一生残るんだよ!? 取引先の皆々様もご覧になられてるんだよ!
クールな顔しか知らなかった方々が目を剥いてるじゃないかー!
プルプルしているあたしに流し目をくれたフミタカさんは、こっちにだけ聞こえる声で「まだまだこれから」などと呟く。
あとで覚えてろはもう始まっているのかと戦慄した。
ホント、開き直ったら手に負えないな……!