At a wedding #11
 

 ファーストバイトのあとは、来生社長による乾杯の音頭がある。
 ――の、前に。
 みどりちゃんが、前方の少し空いたスペースを指し示し、両親たちを呼んだ。
『両家ご両親様、こちらへどうぞ』
 うちの両親は察したのだろう、迷う様子もなくあたしたちの背後から離れ、横に並ぶ。来生社長たちも、つられて移動。
 披露宴の間だけ、社長夫人がいつも使われている車椅子はなしだから、社長が夫人にぴったりと寄り添いながらだ。
 すかさずスタッフが二つのケーキを運んで、ニコニコしている木内父母と、キョトンとしている来生父母の目前にセッティングする。
『――新郎新婦より、ご両親へのプレゼントです。ご両家ご夫妻にもケーキバイトをしていただきましょう』
 メモリアルバイト、とかサンクスバイトとか言うらしい。
 新郎新婦が今まで食べさせてもらった感謝を込めて母たちに行う例もあれば、今あたしたちが目論んだように、両親にもケーキ入刀・バイトをしてもらうこと、けっこう企画してるみたいなの。
 披露宴プログラムを決めているときに知って、ファーストバイトについて話し合った。
「無意識に『はい、あーん』をやってる人たちが今さら照れる問題?」って遼太には呆れたように言われたけど、そうじゃなくて、別に一つやりたいことがあったのだ。
 それがこれ。
 来生家へ訪問したときに、社長夫妻が結婚式を挙げてないって聞いて、うちの母とドレス選びに盛り上がっていた伯母様を見ていて、思ったのだ。
 結婚式やってみたかったのかな、って。
 内輪の友人たちと、お祝いのようなことはしたらしい。
 だけど、『結婚式』とは別じゃない?
 今なら、レストラン貸し切ってパーティーで結婚披露の代わりにすることも珍しくないけど、両親の年代ではやっぱりちょっと違う。
 派手婚が流行り出した世代だ。
 憧れもあっただろう。
 家や身体の事情もあって、もとから夫人は自分が愛し愛されるひとと結ばれる未来など、諦めていた節はある。
 社長と出逢って、その一番重要なことは叶えられたのだから、式なんてしなくてもかまわないと、当時は思っただろう。
 するしないで、幸せの是非を問うことは無駄だ。
 だけどさ。
 やっぱり、花嫁って、女の子の憧れだ。
 あたしの学生時代の友人に、お一人様をエンジョイしきってて、男は要らないわーって子がいるんだけど、その彼女ですら「結婚はしたくないけど花嫁にはなりたい」という矛盾したことを言っていたし。
 いろんなウェディングドレスを見てはしゃいでいた伯母様に、夢見ていた少女の頃の姿が重なった。
 機会があれば、結婚式を挙げ直すこともできたのだから、それをしないのは理由あってのことかもしれない。
 こういうのって余計なお世話かと悩みつつ、フミタカさんと、来生夫妻に親しい方に訊ねてみたのだ。
 両親用のウェディングケーキを用意して、気分を味わってもらうのはどうだろう、と。
 ちょうどお二人の関係者やご友人も揃ってる。
 あらためて、これからも一緒にいることをご披露するという意味で――
 フミタカさんは「いいんじゃないか」と一見素っ気ない返事だったけど、柔らかく笑っていたので、賛成。
 相談した方々も、そういえば社長夫妻が公の場でお披露目というものをしたことがなかったと、気づかれたらしい。
 南条家の影響を気にして、伯母様は常に奥に控えてらしたから。
 サプライズを提案したのは、実は室長。
 演出をあらかじめ予定に組み込んでおくと、あちらは遠慮するから流れに乗せた方がいいですよというありがたいご意見に従って、今! びっくりドッキリでございます!
 こういうとき母のノリの良さに感謝したくなる。率先して、さっきのあたしたちのように、ケーキにナイフを入れて、「あーん」なんてやってる。そんな両親を見て、親族席の遼太は疲れ顔、茜は楽しそうだ。
 うちの両親がしているのに、社長夫妻がしないわけにもいかない。
 おずおずと同じ動作を行なって、拍手とフラッシュを浴びた二人は、顔を見合わせ、はにかんだ笑みを浮かべた。

  
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