At a wedding #9
 
 扉の向こう側から、入場用のBGMとみどりちゃんのマイクを通した声、そして招待客が打ち鳴らす拍手の音が聞こえてくる。
 と、同時にカーッとあたしの頭に血が上った。この土壇場になって緊張が頂点に!
 ぎゅうっとフミタカさんと繋いでいた手を握りつぶさんばかりに力を入れる。
「ううう、武者震いだねえフミタカさんっ」
「いてえよ。討ち入り状態になるのはやめろ。笑顔笑顔」
「そうゆうフミタカさんは緩み過ぎてると思うんだよ」
 こちらのやり取りを苦笑しながら聞いていた係員さんが、「よろしいですか?」と合図して、あたしたちは馬鹿をやめて扉に向き直った。
 この中にいるのは、あたしたちを祝いに来てくれた人たちだ。
 ま、そりゃ義理や仕事の一環としてっていう人もいるだろうけど、「おめでとう」って思ってくださる気持ちに代わりはない。
 めいいっぱいのありがとうと幸せをご披露しなければと、気合も入るってなものよ。
 披露宴の準備に関しては、友人たちもだけど妹の茜が大いに役立ってくれました。ウェルカムボード、その他モロモロの細かい演出、いつの間にか人形まで作ってて、その出来映えにはあたしも感心したものだ。
 ロマンチックが大好きな茜が張り切ってくれたから、無事に今日を迎えることができたような気がする。
 何しろ、音楽なんて適当に流行りを聴いたりするだけで特にこだわりもなく、更にはなんにも考えてなかったため、「用意してくださいね」と言われてもさっぱりわからなかったのだ。
 時間もないし、ネットやショップでオススメのウェディングテーマ曲でも入手して、適当にピックアップしようと思ったら、「そんなことはこの茜が許しません!」と仁王立ちした我が妹が、何故かフミタカさんと連絡を取り合い、吟味に吟味を重ねた音楽を揃えてくださいました。
 姉の威厳が……。
 その茜セレクト入場曲に迎え入れられて、扉を潜る。
 スポットライトを浴びて、フラッシュなんて焚かれちゃって、いつものあたしなら逃げちゃうシチュエーションも、笑顔で迎え撃つ。
「だからなんで披露宴に対して戦闘的になっているんだ」ってフミタカさんが呟くのを耳にしながら、ニッコニコで雛壇まで進んだ。
 途中、新郎が何故か新婦席の一角を見て身体を強張らせてたけど、知らない知らない。
 いつも素敵なお姉様たちに小さく手を振って、同僚たちの半笑いにやり遂げたぜ! なスマイルを送って、みどりちゃんの司会進行に合わせて席につく。
 当初お姫様ドレスに腰が引けていたあたしですが、一旦決まっちゃうと開き直って現金にもウキウキしてたところ、どっこい、その後着飾るだけでない試練が待っていたのだ。
 普段着なれない、ふんわりドレスの立ち居振舞いとか、今みたいにドレスを引っ掛けずかっこよく座るコツとか。一番苦労したのは身長差を縮めるためのヒールで歩くことだけど。
 とにかく言われたのは「走るな跳ねるな拳を振り回すな」。
 いつまで経っても落ち着きなくパタパタしているあたしには、おしとやかにすることは一種の苦行なんですが、TPOくらい弁えてますってば。
 自分としては美しく腰かけたつもりでも、何か気になるところがあったのか係員さんがサッとドレスの裾を美しく直してくださっていた。
 入場の時よりは写真のフラッシュも少ないけれど、高砂に座る様子を取っている人もいるので油断はできない。
『ただ今より、来生・木内ご両家の結婚披露宴を始めさせていただきます。申し遅れましたが、本日司会をつとめさせていただきます、新郎新婦共通の友人、新嘗(にいなめ)みどりと申します。どうぞよろしくお願いいたします』
 お澄まししたまま、続くみどりちゃんの新郎新婦紹介を聞いていると、低く唸るような声が隣からしてくる。
「おい鈴鹿……あれはどういうことだ」
「あれってどれー?」
 これかな、それかなー、うふふ、なんてわざとらしく空とぼけてみれば、ギロリと睨まれた。
「……あとで覚えてろ……」
 おおコワー。
 ちなみに二人とも、笑顔は保っておりますよ。にこにこ。
 会場の人々からは、新郎新婦が微笑みあっているようにしか見えないだろう、たぶん。
 祝辞の言葉だってちゃんと聞いてるし!
 あ、新婦側は従弟の叔父さんが引き受けてくれました。引き受けたそのあとで、招待客リスト見て青ざめてたけど。
 ごめん、無駄にでっかい披露宴でごめん!
 フミタカさん側は来生の関連会社の会長でもある丸川氏。
 彼との結婚が決まった当時は会社の利益も考えて反対もされていたけれど、もともとは社長の古い友人でフミタカさんを子どものころから知っている人だ。不満げにしつつも受け入れてくださった。
 うん、なんだかね、あっちは『うちの息子っぽいのをこんなちまっこい娘にやるものかー!』という感覚なんだよね。
 それに気づけばイヤミも流せるようになった。あたし自身を嫌っているならヘコみもするけど、ちょっと違うし。
 言うなればフミタカさん側の舅みたいなものかな。本物のお舅さんは最初から友好的だから、その分だと思えばいいのだ。

  
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