Side she-2
「っ!?」
「俺の気持ちはどうなるわけ」
怒ったような声が頭の上でする。ううん、ような、じゃなくて、怒ってる……。
私を腕の中に閉じ込めたまま、低く呟く彼から感じる怒気に、身体が強張る。
「お前を好きな、俺の気持ちは、どうしてくれんの」
「……サッカーがあるからいいでしょ? アンタの一番は部活なんだから、私のことなんて、すぐどうでもよくなるよ」
だって、付き合っていてもそうだったんだから。
「っ……! 、クソ、逆効果かよ……」
逆?
私が怪訝に思ったのが分かったのか、重くため息をついてから、ギュッと私を捕まえる腕を強くする。
「……ごめん。お前が不安なの分かってて、サッカー優先してた。
……わがまま、言ってくれるかと思って……」
………は?
「……ナニソレ」
「今日も、嫌だって言うのを期待してたんだけど…、お前、物分かり良すぎて、俺も不安だったんだよ」
いつも、何でも許すし。
俺ばっかり好きみたいで。
付き合うのも俺が強引に、オッケーさせた形だったし。
どうでもいいって思われてるんじゃないかって。
珍しく饒舌に言い訳をする、その内容に頭がぐるぐるした。
ナニソレ、
ナニソレ、
ナニソレ。
「こういう、爆発の仕方されるとは思ってなかった。……ごめん、別れるとか言わないで……」
そんな弱気な声、初めて聞いたよ。
すとんと身体の力が抜けた。
「……5回に1回は私を優先して」
「3回に1回する」
「後輩だし、マネージャーだからって、あの子にあんまり優しくしないで」
「ちゃんと断ったんだけど……、うん、はい、今日みたいなこと無いようにします」
「……指輪、投げてごめんなさい」
「ヤキモチ妬いてくれてうれしい」
「「 ……好きだよ 」」
ぱちん、ぱちん。
不安と不満が溜まって弾けた気持ちが泡になって消えてく。
アンタといるだけで。
アンタに抱きしめられてるだけで。
歪んだ気持ちが均されて、補強されて、アンタの想いと融けて混じって柔らかな丸になる。
ふうわり、パステル色のやさしい水玉模様に。
様々に色を形を変える、こんな気持ち、アンタがいなきゃ知らずにすんだ。
……知らないまま、過ぎていくだけだった。
ふたりで作る、水玉模様。
ずっと、ずっと、
まあるく、やわらかに、
いろどらせてね―――。
初出:2008.11/08ブログSS