Side she-1
アンタなんか好きになるんじゃなかった。
「待てよ、話聞けって……!」
振り切って引き離したはずなのに、気が付いたら追い付かれて腕を掴まれてた。
「もういい。ウンザリなの!」
感情的になってるって分かってる。
私らしくない、こんな衆目のある道端で言い争うなんて。
こういうふうになる私も、私をそうしてしまうアンタも大キライ。
変化なく整ったものが好き。
そんな私は、まあるく、歪みない場所にいたのに、アンタを好きになってから、目まぐるしく揺らぐ世界に放り込まれてしまった。
今の私の気分は激しく大きさを変える天然色のドット。
鼓動にあわせてチカチカする。
「……だから! 急にみんな都合が悪くなって、たまたま二人だけになっただけなんだから、お前が誤解するようなことじゃ、」
「嘘つき! 自分だって“みんな都合が悪くなる”なんてことあるわけないって分かってるくせに!」
休日の今日。
ホントなら、私とデートの日だった。
朝、急に掛かってきた電話でそれがキャンセルされるまで。
“ごめん! 部内で引っ越しする奴がいて、そいつの餞別みんなで買いに行くことになったんだ”
“……いいよ、しょうがないよ、じゃあまたね”
いつも部活優先。
チームの要だし、仕方ないって、我慢してた。
今日が2ヶ月ぶりのデートだったとしても。
だけど。
アンタのことが好きなマネージャー、どうしてあの子と二人だけで街にいるの。
私は独りぼっちなのに、どうしてアンタとあの子が笑ってるの。
衝動のまま、投げつけた。
誕生日、アンタに貰ったまあるいムーンストーンがついた指輪。
もういやだ、もういらない。
アンタが好きだと言ってくれた時のほっこりした暖かい気持ちも、
好きになりすぎて歪む私の気持ちも、
いらない。
「もういいよ、どうせアンタの友だち私のこと嫌ってるんだから、みんなと仲良く出来るあの子とくっつきなよ!」
掴まれた腕を振り払って、叫ぶ。
足元に落ちるのは悔しさと悲しさが入り交じった水玉模様。
「嫌ってるって、んな訳……」
「似合わないって言われてるの、知ってるよ。サッカー部のエースと図書委員の根暗女が何でって。……今日だって……、」
みんなで示し合わなきゃアンタとあの子が二人きりになるわけないじゃない。
それってつまり、部のみんながあの子に協力したってことでしょ?
私っていう、彼女がいても関係ないってことだよね。
そのことは気がついてたんだろう、言葉につまったように髪をかきあげる。
爆発した感情を全部吐き出した私は、急速に冷静になった。
こういうことなんだ。
いくらアンタが私を好きだって言ってくれても、結局優先するのは仲間で、サッカーなの。
私もアンタが好きなら、そのことを我慢するべきなのかもしれない、ううん、そう思って我慢してた。
でも、もう、限界。
「……ばいばい」
小さく呟いた。
ポツリ、ポツリ、地面を濡らす水玉が、重なりあって歪んだ模様になる。
明日から、もっと強固なバリアを作ろう。
まあるいまあるい、どんな視線だって滑り落として、固い固い、誰にも破られないような、自分を守るバリアを。
真っ直ぐに告白してきたアンタが破ったバリアより、もっと、強いものを――、