花風 #2
「――果林、まだ妊娠しねえの? ヤリ足りねぇのかな……」
さんざん好き勝手しといて言うか、そうゆう事。
呆れてヨソを向くあたしの頭をわし掴んで、唇に噛みついてくる男に、無言で従う。
口を割って入ってくる舌は僅かに薬の味がして苦い。口腔を舐め回すのと同時に、ニットを捲り上げられて、痛いくらいに乳房を揉まれる。
「っ、ん……、」
両手でふくらみを捏ね回され、強い刺激に顔を歪めると、ギュッと粒を捻られた。
「もう立ってる。ずいぶん慣れたじゃん」
クツクツ喉の奥を震わせてあたしをベッドへ倒す相手に、ボウとした視線を向けて、指の動きに喘いだ。
抵抗しても無駄だってわかってるし、相手は病人。
例えあたしを押し倒す元気があっても、余命幾ばくもない、病人なのだ。
琢磨は。
――幼なじみの琢磨が、余命半年を宣告されたのは4ヶ月前。
詳しい病名を聞いてもどうしようもないので良く知らないけど。
琢磨がもうすぐ死ぬのは事実。
元気な様でいて、あたしを病室のベッドに押し倒してる琢磨の身体は日に日に骨が浮き出し、健康的に焼けていた肌は青白く、血管が浮き出て見えそうになっていて。
一日ごとに、遠くへ行く準備をしているかのよう。
ナカを突く動きに激しく身体を揺さぶられながら、あたしは琢磨の背に爪を立て、注ぎ込まれるものを余す事無く受け止める。
4ヵ月前に始まった、儀式。
***
「ゃ、やぁあッ…………!」
「大人しくしてろよ、血まみれになりたくねえだろ」
いっそ冷酷ともいえる声音で、身体を押さえつけた琢磨の凶器があたしを犯す。
慣らされてもいないそこに、無理矢理捻じ込まれる男の印。
経験があるはずの琢磨は、あえて傷つけるように、愛撫も施さず初めてのあたしを貫いた。
「っつぅ、いやぁ……ッッ、いたいっ……痛いぃッー……」
「俺のほうが痛いっつうの……きっつ……」
ベッドに、うつ伏せに押さえ付けられ、背後から身体を繋げられて。
開かれてもいない間口が切れ、琢磨が擦り上げるのに合わせて、赤い滴りが流れるのがわかった。
「……ぅっっ、ふッ……ッぇ……、いゃぁ……ッ、いやぁあっっ」
叫んで泣けば泣くほど、琢磨は腰の動きを強めて、あたしを苛む。
荒く息を吐きながら、嘲笑うようにささやかれた。
「いくらでも叫べよ。どうせ母さんはお前ん家のおばさんとこだろうし……何回ヤれっかなぁ?」
グッグッと容赦なく何度も奥を突かれ、激痛に気を失いそうになる。
快楽は一切無かった。
琢磨の吐く息が切羽詰ったものになり、あたしのナカにあるものが熱くびくびくと震え……
「……果林、出すぞ? ちゃんと飲み込めよ」
「ッ!! 、ひ……、ぃやっあああああーーッッ!!」
胎内で弾けたものが何なのか、考えたくなくて、あたしは意識を手放す。
……でも、終わりじゃなかった。
皮肉にも、琢磨が放出した体液のせいで、ナカの滑りが良くなり、更にあたしは嬲られることになり。
「ゃめ……っ、琢……あ……ぅ……」
骨が軋むほど穿たれ、どれだけかわからないくらい中を汚される。
琢磨のベッドに、壊れた人形みたいに横たわっている私の上に、夕陽が差し込んでいた。
瞬きを忘れた瞳が、表情の無い琢磨の姿を映した。
琢磨はじっとこちらを見下ろして、傷付いたあたしの足の間から溢れる、自分が吐き出した汚濁を指で掬い、歪んだ笑みを浮かべる。
「……なぁ、果林。俺、もうすぐ死ぬんだって」
――先日、琢磨は授業中に倒れ、病院に運ばれた。
今日、精密検査の結果を訊きに、朝から琢磨とおばちゃんは出掛けて。
昼過ぎに、真っ白な顔をしたおばちゃんがうちのお母さんと泣きながら話をしてるのを、廊下にいたあたしは聞いてしまって。
それが本当のことか、琢磨に訊きに来て――
「だからさ、果林。俺の子供産んでよ……」
あたしの髪を撫でながら、今日初めてやさしく口付けてきた琢磨が、再び中に入ってくる。
力の入らない身体を揺さぶられる度、流れ落ちる涙を吸い取る唇が、何度もあたしの名前を呼ぶ。
あと半年。
それが琢磨に与えられた残りの時間だった。