apricot #3
 
 
新聞配達のバイトから帰ったら、ママは夜の仕事に出ていて。
リビングにはママの新しい彼氏がいた。
そいつのことを柚李は好きじゃなかった。
ママより年下で、顔はいいのかもしれないけど、いつもニヤニヤ品のない笑いを浮かべてて、柚李のことを見るから。
その日も。
『柚李ちゃんはママに似てるけど、あっちのほうも似てるのかなぁ』なんて訳のわからないことを言いながら、柚李に触ってきたのだ。
口を塞がれ、身体をまさぐられ、気持ち悪くて怖くて滅茶苦茶に暴れて、男の手が弛んだスキに家を飛び出した。
行くとこなんてなかったはずなのに、柚李は気が付いたら潮ちゃんの家のドアをドンドン叩いてた。
ここまでどうやって来たのかも覚えてなかった。
部屋から応答の声がして、その時になって、潮ちゃんが柚李を覚えてるか不安になったけど、怪訝そうにドアを開けた潮ちゃんが、柚李を見て、ちゃんと『柚李』って呼んでくれたから、泣き出してしまったんだ。
玄関でいきなり抱きついて泣きじゃくる柚李に、最初は戸惑っていた潮ちゃんだったけど、そのうちハッとして、恐い顔で『何があった?』って訊いてきた。
潮ちゃんに会えて、安心した柚李は、家であったことを、嫌だったけど潮ちゃんに話す。
潮ちゃんは恐い顔のままだったけど、じっと聞いててくれて、柚李が話し終えると、もう大丈夫だと、抱きしめてくれた。
ずっと会ってなかったのに、潮ちゃんは優しいままで。
――やっぱり好きなの。

しばらくしてから泣き疲れてボンヤリしてる柚李をソファに寝かせて、潮ちゃんはどこかに電話をしていた。
柚李は腫れてる眼を冷やそうと、顔を洗うために洗面所に行って、
鏡に映ったものに愕然とする。
首とか、胸元に点々とした痕が付いていて。
―――あの男の、付けた痕。

声にならない悲鳴を上げて柚李はバスルームに飛び込んだ。
潮ちゃんに見られた。
きもちわるい。
きもちわるい。
ゴシゴシ擦っても洗っても消えなくて、そこから自分が腐っていくような気がする。
きもちわるい……!
「柚李! やめなさい!」
痕の付いた首筋から胸の皮膚を自分の爪で掻きむしっていた柚李を、潮ちゃんの厳しい声が止めた。
腕を強く掴まれて、柚李は抵抗する。

だって、剥がさなきゃ。
きもちわるいの。
汚いから。
きもちわるいんだもん。
柚李、腐っちゃうよ。

「柚李、……」
半狂乱になっていた柚李を潮ちゃんが抱きしめた。
どうして潮ちゃんがそんな辛そうな顔をするの?
「……っ、っ、?」
ピチャリ、と潮ちゃんが柚李の傷を舐めた。ゾクっとして、身をすくませる。
「……俺に、触れられるのも嫌か?」
潮ちゃん?
潮ちゃんはいい。
潮ちゃんに触られるのはウレシイ。
「なら俺にされたことだけ覚えてろ」
言って、あいつに触れられた場所を消毒するみたいに、柚李の肌に唇を落としていく。
「、っア……んん……」
甘い、吐息が自分の口から溢れ、恥ずかしくなる。
だって、同じことされてるのに、潮ちゃんとこんなに気持良くてやらしい気分になるなんて、柚李おかしいよ。
「っ、ァ、潮ちゃん……っ」
柚李の小さいふくらみを、潮ちゃんの大きな手のひらが包んで、揉む。
「嫌じゃないか?」
 確かめるように、新しい触れかたをする度潮ちゃんが囁く。
その都度柚李は頷いた。
ウレシイ。
柚李を慰めるためだけでも、潮ちゃんが、
 柚李をオンナのコとして扱ってくれてる。

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