apricot #2
 

潮ちゃんはどんなに柚李がねだっても、最後までしてくれない。
だから、こんなやらしいことをしていても、柚李はまだ、処女のままだ。
柚李がコドモだから。
潮ちゃんは柚李を可愛がってくれるけど、それは昔、ほんの一時期だけ、柚李が潮ちゃんの姪っ子だったからで、オンナとして愛してくれてる訳じゃないの。
仕方ないかもしれない。

柚李が潮ちゃんに初めて会ったのは、11才のとき。
潮ちゃんは24才。
柚李のママがその頃何回目かの結婚をして、その相手が潮ちゃんのお兄さんだった。
旭パパはいい人で、連れ子の柚李にもとっても優しかった。
それまでママが結婚したひとは、柚李を邪魔にするか無視するかだったので、『お父さん』をしてくれる旭パパが柚李は大好きだった。
ママはそれが気にいらなかったみたいだけど。
学校が長い休みに入ると、ママの我が侭に押し切られ、柚李を置いて旅行に行くことになった旭パパは、一人暮らしをしている弟に柚李を預けることにした。
旭パパの弟と言っても、大人の男のひとが苦手だった柚李は、ものすごく緊張しながら、潮ちゃんの家の前に立った。
インターホンを押すと、すぐ応答があって、ドアが勢いよく開く。
「よく一人で来れたな、柚李」
初対面なんて感じない暖かさでそう言って、柚李の頭をクシャっと撫でた。
顔を合わせた潮ちゃんは、旭パパより男っぽいハンサムさんで(旭パパはどっちかってゆうと中性的だったの)、でも冷たそうな見掛けとは全然違って、笑うとっても素敵だった。
「遠慮なんかしなくていいぞ。
俺は柚李の叔父さんなんだから」
潮ちゃんは妹が欲しかったんだと、柚李がお世話になってる間、いろんなところに連れて行ってくれたり、新しい服を買ってくれたりした。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにも会わせてもらった。
ママが、必要ないって言ったから、旭パパの実家に柚李は行ったことがなかったのだ。
二人とも柚李が来たのを喜んでくれて、ご馳走をたくさん食べさせてくれて。
今まで放って置かれて育った柚李には、信じられないくらい、手間をかけて面倒をみてもらったと思う。
 ママ達が旅行から帰ってきてからも、お休みのときは潮ちゃんに会いに行った。
 子供だったけど、その時にはもう、柚李は潮ちゃんに恋してたから。
一番、幸せな時間だった。

ママが、赤ちゃんをなくしてしまうまでは。
子供はいらないというママは、旭パパに内緒で、赤ちゃんを中絶してしまい、そのことが原因で、旭パパと別れることになってしまったのだ。

たった一年。
旭パパは柚李を引き取ろうとしてくれたけど、意地になったママが柚李を手放さなかった。
柚李なんかいらないくせに。
旭パパや潮ちゃんは、会いたかったらいつでも家に来ていいってゆってくれたけど、何の関係もなくなった子供の相手をしてもらうのも悪くて、柚李はガマンした。
一年間の思い出だけでも充分だって。
潮ちゃんに会えなくなるのはとても辛かったけど、潮ちゃんは柚李よりずぅっとオトナで、もともと叶うはずがない恋だったから、諦めるには丁度よい機会だ、なんて自分を誤魔化して。

小学校を卒業して、中学生になって。
ママは数ヶ月ごとに男のひとが替わって、相変わらず柚李には無関心だったけど、それもいつものこと。
柚李が大人になるまでずっとそんなふうな生活が続くんだと思ってた。

柚李が14才になったばかりの夏、あんなことがあるまでは。


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