3
綾の長い指が髪の間に差し込まれ、癖のある花のクセ毛をまとめていたピンを丁寧に一本ずつ抜いていく。
絡んだ髪をとかれて、まるでグルーミングをされているような気分にもなる。
人嫌いの女嫌いのくせに、やけに手慣れている風なのがちょっと引っ掛かるが。
流されている、と花自身わかっていたが、妙の手術についてと、たった今気づいた衝撃の事実に疲れ果てた脳はうまく動かず、まあいいか、なんて結論を出してしまう。
だって、結局、――だし。
これ以上アレコレ考えるのが面倒だった。
初めてならもうちょっと躊躇ったかもしれないが、二年前まで彼氏のいた身だ。
『それ』がどういうことか理解している。
――そして、おにいちゃんじゃなく男になった綾が、どんな風に自分に触れるのか知りたくもあった。
「――花さんの髪、小さい頃からフワフワで、実は撫でるの好きだったんですよ」
髪だけでなく全身を撫でながら、綾はそんなことを言う。
思い出の中、ただ小さな子を愛でていた手と、今、男として女を愛でる手とのギャップに妙な背徳感を覚えた。
「は、っん……っ」
服を脱がされる間も、やまない口づけに息が苦しくなる。
花が喉を喘がせる度に、綾は嬉しげに目を細めて肌を擦る力を強くする。
シャツを捲り上げられて、ホックを外されたブラは中途半端にずらされて。
「ん、んん……っ」
綾の手のひらが両の膨らみを包み込む。円を描くように押し揉まれて、ビクビクと身体が戦慄いた。
部屋の明るさに耐えかねて、ぎゅっと瞼を瞑ると、自分の肌に触れている彼の手のひらの固くなった部分や、傷のあとが鮮明に感じ取れて、花は背筋を震わせる。
呼吸を整えて熱を逃そうとするのに、舌を食まれてそれもままならない。
「大人になりましたね……花さん」
何かを揶揄するような口調に、花はキレた。
べちりと自分にのし掛かる綾の頭を叩く。
「さっきからもう! 遊ぶんならもうしませんっ」
わざと花の羞恥を煽る発言を重ねていた彼は、その叱責に軽い笑い声を立てて暴れる彼女を抱きしめた。
「花さんが可愛いからつい。ごめんなさい、もうしませんから――続き、させてください」
「やだ馬鹿!」
口先ばかりは誠実に、そのくせ花が逆毛を立てて怒るのを楽しんでいる。
こんなときにまで、人を試そうとするなというのだ。
やっぱり前言撤回! こんな馬鹿たれなんか――じゃないっ。
はだけられた胸元を掻きあわせて、綾の腕から逃れようとじたばたする花の足首が捕まれた。
「――にゃあっ?!」
甲に唇が落とされる。
恭しく、かつ艶冶な仕草で与えられる足元への愛撫に、花は奇声を発した。
「知ってます? 花さんの身体で一番魅力的なところ」
足の裏を握手するように捧げ持ち、上体を起こした花を足元から見上げて、綾は微笑む。
手の指先で足指を撫でられ、くすぐったさに花は身動いだ。その足首を持ち上げて、綾は唇をあてる。
「真っ直ぐに伸びた脚と――締まった足首。細いのに、肉付きが悪いわけではないんですよね、花さん」
って、うっとりと頬擦りするな、この足フェチが!
くすぐったいやら綾のうっすら変態じみた発言でゾワゾワするやらで、花は呻く。
足首をガッチリ捕まれ、半裸にされた花は逃げようにも逃げられず、跪いている男を睨んだ。
笑みを絶やさないそのお綺麗な面を蹴り飛ばしたい。そう思っても、タイトなデニムスカートが邪魔をする。
というか、これ以上足を持ち上げられるとヤバすぎる。
おそらく、花のそんな葛藤もわかっているのだろう、見せつけるように綾は彼女の膝小僧にキスを落とした。
綾の手のひらが滑り、膝の裏側、腿の内側を撫で上げる。
撥ね退けることも受け入れることも出来ずに、花は息を弾ませた。
知らず摺り下がる腰、背中が壁にぶつかる。逃げ場をなくしたことに気づいて瞬いた彼女を、綾は満足げに見つめて、再び口づけを落とした。
絡めとり奪うキスが、それまでの花の抵抗を無駄なものにしていく。
食む、という言葉通りに舌先を強く吸うように甘噛みされて、ぶるりと震えた。
思考が麻痺する。
身体を隠すことも忘れて、花は目の前の男にしがみついた。
――可愛いなぁ、花さん、とからかうように笑った綾に、あとで覚えてろ、と恨み言を呟くことは忘れなかった。