おとぎ話ダメだ


 図書室言うてるけど、ここに置いてある書物の数はそこらへんの図書館顔負けの量やと思う。

 しまったわ、アレイストが出掛ける前に聞いときゃ良かった。
 絵本なんか読むひとはこの城には居らんやろうし、あるとしたら需要度の低い隅っこの方かなー。

「何故案内板がないですか。アイウエオ順に並べとけというハナシです」

ぶつぶつ文句を言いながら、ロルフと端から探していこうとしたとき。

「……っ、絵本の類いは南側の三つ目の棚の下段にある! お前も従者なら主の城のことぐらい把握しておけ!」

そう、偉そうな声が私たちに投げられた。
最後の部分はロルフにか。

 てゆうか、

『ボクちゃんよお知っとるな。絵本好きなん?』

 かいらしい外見やし、お子ちゃま向け絵本読んどっても違和感ないけどな。

日本語のわからない彼は、何を言ってるんだこの女、と眉を潜めた。

 まあいいや、南側の三つ目の棚の下……南ってどっちやねん。

普段方角など気にもしてない私はしばし悩む。

「ありがとうございますエルンスト様。ご指南、肝に命じます」

 慇懃無礼なロルフの言葉に、ふと、ボクちゃんは実は親切なんか? と疑問を持った。

 やって、聞かれもせんのに本の場所教えてくれとるし。
 ロルフに言うたイヤミかて、好意的な見方をすれば従者なら主の城のことを知っておけちゅう忠告やんな?

まったく、だから人間は愚鈍で嫌なんだとブツブツ呟いているボクちゃんを観察してみる。

私がじっと見ていることに気づいたのか、視線をこちらに向けて、物凄く嫌そうな顔になった。

「……何だっ。じろじろ見るな、ヒトの分際でっ」

 いちいちキャンキャンと小型犬みたいなやっちゃなー、
 てゆうか無視しとったけど、あたしに用事やったんやないんか、こいつ。
 今が会話するチャンスやったのに、残念やな。

と他人事のように思いながら指し招くロルフの側へ足を進める。



「ありました、絵本?」

目的の場所で屈んでいたロルフが頷き、私がよく見えるようにその場を譲ってくれた。

「ミツキ様はどの様なお話が好みですか?」
「んー、最初はよく知ってる話がいいと思うのですが」

 よお考えたらあたし、いわゆるおとぎ話て好かんのやったわ。
 シンデレラは見かけで好きになるんかい、て王子に突っ込んだし、

 眠り姫は寝込み襲うなんか変質者やん王子、て思たし、

 人魚姫なんか最悪や。
 王子追っかけて人間になった人魚姫は根性あったけど、あとがいかん。
 命の恩人に気づかん王子はボケボケやし、まんまと恩人になりすました婚約者はハッキリ言うて悪女やし、追っかけたくせに最後の最後になんも言わんと諦めて泡になってまう人魚姫がいちばんワケわからん。最初の根性どこやってん。

 ……はい分かっとる、あたしは夢も乙女心もない女や。
 おとぎ話にリアル追求すんなて何回も言われたわ。

 でもツッコみたなんねん!


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