ミツキです。
「おい」
私の名前は秋葉深月。
ミツキ、またはミッキ、あるいはミッキーとどこぞの四本指黒ネズミのような呼ばれ方をしている。
最初はそれにイライラしとったもんやけど、最近は慣れた。
こっちの人らにはミツキって発音しにくいみたいやし、まあしゃあないやろ。
「おいっ」
小学校時代のアホ男子のからかいとは違うて、愛称みたいなものやと分かっとるし、いちいち目くじら立てるのも大人げないというものだ。
「おい!」
私の名前は秋葉深月。
けっこうキレイな名前やろ? 気に入っとんねん。
― アキハ・ミツキ ―
「聞いているのかお前!」
断じて“おい”とか“お前”とか言う名前ではないのだ。
なので私は徹底的にその呼び掛けを無視していた。
私に付き添っていたロルフがクツリと小さく笑ったのが分かったけれど、知らんぷりをする。
城の図書室に、暇つぶしアンド勉強用の本を探しに来た私。
アレイストが家の仕事で数日留守にするからと番に呼んだロルフに付き添われていた。
図書室へ行くと言うと、お供しますなんて付いてこられ、ちょこっとうちの中を歩くだけやのに大袈裟なーと思わないでもなかった。
けど、図書室に入って客人の一人、通称ボクちゃんに出くわしたことを考えると結果的には良かったのかもしれん。
アレイストから、ロルフが私の護衛をしてくれると聞いたときは、人間のロルフが、なんかよくわからん力を持っているヤツラに敵うのか疑問だった。
けど、聞いたところによると彼は各種体術を修めていて、しかもアレイストと個人的に主従契約を結んでいるため、アレイストより下位の者にある程度対抗できる能力を持っている、らしい(聞いたまま)。
しかしロルフも大変やな、常日頃はアレイストのお守りせなならんし、休みの日まで偽物婚約者なあたしの番せなあかんなんてさ。
何を好き好んでアレイストの従者などになったのか、いつか聞きたいものだ。
「おい……!」
「ロルフ、絵本とか、そういうのはどこにあるか分かります?」
「絵本ですか?」
「そう。アレイストが、まず簡単な絵本を、自分の言葉で訳してみて、言葉に慣れていけば、と言いました」
この辺りにあるのは細かい字ばっかりでアタマ痛なりそうやし。
「絵本……アレックスがそう言ったのならこのどこかに有るんでしょうが……」
自分は普段、あまりここを利用することはないのでよく分からない、という返事。
「ひとつひとつ見ていくしかないですねー……」
二人して天井までそびえ立つ蔵書の山を見回してため息をつく。