“アレイスト”
ここ数日お守りとして身につけてすっかり愛着がわいてしまった剣を撫でる。
「うわー、びっくりした、ホントの本気でアレイスト、ミッキを伴侶にするつもりなんだー……。いやわかってたけど、うわー」
あたしはサッパリわからん。
『あいつらが変なことしたら使えて言われて渡されたんやけど? なんか他にあるん?』
訊くと、アストリッドは落ち着かなげに目をさ迷わせたあと、私が手にしたマグカップを奪って中身を飲み干し(ああっ)、一息つく。
『あたしが言っていいものか……、うん、まあアイツら血が濃いし、ソレがあるならアレイストも随分気が休まると思うけど……』
思いきったなー、なんて、訊ねたことには答えず、ブツブツと呟いているアストリッドに私は詰め寄った。
『なんやねん、言い。ええ加減隠し事ばっかでイライラしてんねん、これが何やっちゅうねん』
あー、とか、うー、とか呻いていたアストリッドは、はふりとタメ息をついたあと、諦めた様子で私に向き直った。
『……それはね、我が一族の秘宝だよ。巫女姫が管理し、王が認めた者だけが所持することを許されるんだ。
――そして、それを持った者には王の名のもとに一族を狩る権利が与えられる』
……狩る?
巫女姫だとか王だとか、ところどころ理解できない単語がまざっていたけれど、コレを私が持つということは物凄くドエライことなのだというのが何となくわかった。
『つまりさ、簡単に言うと、ミッキが万が一ソレで一族の誰かを傷つけても、王の名のもとに何のお咎めも受けないってことだよ』
なんでアレイストもアスタも私が犯罪者になること前提に話すかな。
そういえば、と私は首を傾げた。
最近気になっていたとあることを尋ねる良い機会だ。
『なあ、さっきから言うてる“王”ってアレイストのことなん? 一族の王言うならアレイストの親父さんちゃうの?』
ここで言うとる“王”ってのは言葉の通りやなく、何ちゅうのかな、ニュアンスは“ジャンシール一族の最高権威者”ってことやろ?
だから、そういう意味でならアレイストは“王子”じゃないのかと思ったのだ。
『――確かにおじ様はジャンシール家当主で一族のなかでも高い地位にいる。本家嫡男だしね、
でも、“王”ではない。
アレイストが“王”だというのは――アレイストが、“アレイスト”だからだよ 』
……また意味わからん。
アレイストがアレイストなんは当然ちゃうの?
私がミツキであるように。
アストリッドがアストリッドであるように。
「――アレイストは、“アレイスト”として生まれたから、アレイストで、“王”なんだ」
そう言ったアストリッドは、どこか痛いような顔をして笑った。
言葉遊びのような、それ。
だけど、
私は彼ら一族にまつわる秘め事の一端に触れていることを本能のどこかで感じていた。