親友ビビる
『ミッキー♪ やほー、上手いことコマしてるぅ?』
何を誰をやねん。
与えられた自室でバターハチミツたっぷりついでにカロリーもたっぷりトーストを自作している私のもとへ、アストリッドが賑やかに現れた。
ああうん、シェフが作ってくれるベラボウに美味しいスイーツも毎日用意されてるんやけどな、たまにはこう、単純に、甘ッ! でもうまいねんっ! ちゅうものが食べたなんねん。
別腹別腹。
了承もなく、私の、まさに今できあがったばかりのトーストを横からバクリとかじり、フムフム頷いている親友に蹴りを入れる。
かわされた。
『うもー! 来てイキナリおやつ横取りすんな! 今まで何しとってんっ』
この三日間というもの、姿を現さなかった親友に不満の目を向ける。
『んー、ちょっと本家に?』
さらに私の淹れていたチープミルクティー(温めてもろたミルクにポットで濃ぉ出した手抜きティーバッグ紅茶を混ぜるだけの代物)を横取りして、アストリッドは、気疲れしたー、とベッドに腰かけた。
本家、て……。
『化石ジジイどもの巣窟か?』
『そ。探り入れてきた』
『……探り』
ゴロリとシーツに横たわり、アストリッドは葡萄色の瞳でこちらを見つめてきた。
『我々一族の王であるアレイストの花嫁であるにも関わらず、ミッキに対して奴等を送りつけてきた真意ってのを、ね』
花嫁ちゃう。
ツッコミたかったが、そういう雰囲気でないのはわかっていたので黙って椅子に座った。
アストリッドは寝っころがったまま、ひらひら手を振ってニヤリと笑う。
『来てるでしょ、若様方。揃いも揃って血統が良い奴らが』
血統がどーのは知らんけど、ええ、まだいらっしゃいますよ、お陰で使用人の皆様にも妙な緊張感があって過ごしにくいことこの上ないし。
初日以来、特に直接接触してくることはあらへんのやけど、密かに観察されとって嫌な感じや。
ジーと影から見てんと、言いたいことあるんやったらとっとと言えっちゅうの。
奴らの居らん学校へ行くのがこんな嬉しいてないわ。
……まあ、アレイストに渡されたコレがあるからあたしに近寄れへんのかもしれんけどさ。
ジーンズのベルトにぶら下げた銀色の凶器をニットチュニックの上から押さえる。
あれ、そういえば。
『アスタ、これ大丈夫?』
チュニックの裾を捲って小剣をチラリと見せる。
アストリッドはそれを目にした途端ギョッとして身を引いた。
「アルジェイン……!? まさか、アレイストがミッキに渡したの!?」
『え、そうやけど』
なんか、ビビリ方がちゃうような気がする。
てか、あるじぇいんてナニ。
あんたそんな大層な名前あんのー。
ここ数日お守りとして身につけてすっかり愛着がわいてしまった剣を撫でる。