納得いかん


「……キ、ミツキ?」

耳元で、甘いようなスパイシーな声が、少し変わったイントネーションで私の名前をささやく。
やわらかいものが頬に触れて、こめかみを滑り、額に移る。
むにむに寝ぼけていた私は、くすぐったさに眉を寄せ、ソレを叩いた。

「あいた」

間の抜けたアレイストの声がして―――、

『何やっとんねん貴様! 人の寝込み襲うとは上等や、覚悟はええかッ』

ガバリと身を起こすなりヤツの胸ぐらを掴みあげる。

が。

へにょへにょと再びシーツの上に沈み込み、私はお腹を押さえた。

『ひもじい……』

ぎゅるぐぉ、と怪獣のような音を立てる胃を宥めていると、アレイストが頭を撫でてくる。

「21時だからね。夕食の時間過ぎちゃったよ」
『はいィ!? あたしのご飯はッ!!』

 21時て、三時間も寝てたんかい、なんで起こしてくれへんの!

「ちゃんと取ってあるよ。すぐ持ってこさせよう」

腹ヘリで飢えた小猿のごとくイライラしている私を宥めて、アレイストは室内電話を繋げた。

 あー、お腹すきすぎて気持ち悪。
 思たら、アレイストにめっちゃ血ぃ吸われたんやん。そらお腹すくわ、栄養を身体が求めとるんや。

『あ、そういや食事すっぽかして失礼やったかな? 坊っちゃん方機嫌損ねへんかった?』

グシャグシャになった髪をほどいて手ぐしで整える。

 結んだまま寝てしもたから、頭の皮が突っ張っとるわ。

「気にすることはないよ、ちゃんと説明しておいたから。“俺が無理させたから疲れて今は眠ってる”って」

 ………。

ニッコリ笑って発言した確信犯のアレイストを下から掬うように睨み付ける。

 どう考えてもそれってエロい意味を含んだ言い回しにしか聞こえんのやけど。
 ハナッから誤解を招く言い方やんな?
 文句を言いたい。

しかしこれも作戦と思うと、アレイストを罵倒するのは悪いような気がする。
十中八九、アレイストは誤解が広がるのを面白がっているに違いないけど。

 くあー!
 身の安全のためとは分かっとるけど、あたしまだ清らかさんやのにー!

 しかもアレイストのお手つきやて認識されとっても危険を回避出来へんて、それ誤解されゾン違うの? ちがう?

何とも言えない苛立ちを、枕をぶつことで誤魔化している私を、アレイストは首を傾げて見ていた。

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