逆ハーお断り
「急用か?」
目上の人にも偉そうに、アレイストが訊ねる。ハルさんは気にする様子もなく、ただ、ソファーに伸びている私を窺ってから、声をひそめた。
「伝言を預かってるんだけどね。……姫から」
ささやくような最後の一言を聞いたアレイストは眉を上げて、私に向き直る。
「話が終わったあと課題を手伝うよ。それまで休んでて」
へーへー、休みとうなくても指一本動かすのもダルいっちゅうねん、誰かのせいでな。
ノロリと起き上がって自分に与えられた部屋へ行こうとすると、アレイストはオモムロに私を担ぎ上げた。
『にょわっ』
ちゅうか荷物? あたし荷物?
こーゆーときはお姫さま抱っこと相場が決まってるやろ!
そんなんされたら全力で拒否ったと思うがな!
「少し待っててくれ」とハルさんに言い、アレイストは逆らうのも面倒でダラリと手足を垂らしたままの私を隣接した自室に運ぶ。
あ〜、そういやお腹すいた。夕食いつになんねん、まさかあの人らと一緒なん?
食べた気せえへんやん。
嫌やな、あたしだけ別んとこで食事したら気ぃ悪いやろか。
「……ミツキ」
ひたすら食事のことに頭が行っていた私はアレイストの呼び掛けに、へぃ? とマヌケな返事を返してしまう。
ベッドに降ろした私の顔を、深い憂慮を込めて見つめてくる紫色。
もう一度、ミツキ、と私の名前を呼んで。
「家のなかでも一人になるな。長老に言われて来たのなら、奴等は手段を選ばない」
いやあの、せやから手段て何の!?
「すぐに追い出せればいいが……そうも行かないだろうな」
鬱陶しそうにつぶやいたあと、私の髪に指を滑らせてから書斎の方へ戻っていく。
私の不安を煽るだけ煽って。
バタリとシーツの上に倒れ込む。
ホンマ、勘弁して。
アレかコレ、
日本の友達がハマっとった乙女ゲームのよくあるシチュエーション、逆ハーレムとかゆうやつか。
しかしゲームはヒロインがモテモテでちやほやされて甘々の台詞吐かれとったけど、あたしみたいに貞操の危機があるわけちゃうやろ。
しかもホンマにモテとる訳ちゃうし。
奴ら子どもほしいだけやし。若いのにみんなそんな切羽詰まっとんのか。
誰かを好きになったこともないのに、子どもを作ることで求められるてなんやねん。つくづくムカつくし、人をなんやと思てんのやろ。
アレイストが味方で良かったかも。
ようよう考えたら諸悪の根元かも知れんヤツのことをそう思ってしまったのだった。