セクハラどころか


「ぅあっ……」

肩に垂らしたポニーテールを片手で避けてから、有無を言わさずアレイストの牙が私の首もとに突き立てられる。

血が啜られる音と共にゾワリと背筋を震えが走る。

 何回やっても慣れん。

首筋に溢れた滴を舐め取られる感触、ズルリと引き出され奪われていく命の源。
軽い貧血に指先が震えて、ソファーに座っているというのに崩れ落ちそうになる。

ガクン、と自分の力では平行を保てなくなった身体をアレイストの腕が支えた。

「ア、レイ、スト……、」

静止の言葉が上手く紡げない。

 飲み過ぎ! 飲み過ぎやって!

分かっているのかいないのか、アレイストの私を抱き込む力が強くなる。

 てゆうか、この密着具合ておかしないデスカ。
 アレイスト、どこ触っとんの?
 なんか、首やのうて違うところ吸われてるような気ぃするんやけど。

うなじから背筋を撫でるようにアレイストの手のひらが滑っていく。
ゾクゾク悪寒が走る。

くすぐったいような、痺れるような感じがして、力が入らないなりに逃れようと身を捩っても、アレイストの腕は私から離れなくて。

 えーと、あの、もしかして、
 この状況ヤバない……!?
 お風呂入ってへんでもヤバイやんかーーー!!!

「ん……っ、ちょ、」

 エロい! 触り方エロいねん!
 血ぃ吸うだけやのに何でさわる必要あんねん!

内心アワアワしていた私の首元っちゅーか胸元(…!!!!)に顔を埋めていたアレイストが、ふと頭を上げる。

チッ、とまた王子らしらかぬ舌打ちのあと、身を起こして乱れた前髪をかき上げた。
めいっぱい血を吸われた上に17年間キヨラかに生きてきた身には刺激の強いセクハラを受けていた私は疲労困憊、グッタリとソファーの背もたれに背を預ける。

 あとで殴る。
 絶対殴ったる!
 タコ殴りの刑や!!

「誰だ?」

不機嫌を隠さない声でアレイストが扉に向かって声をかけた。

 え。誰か居んの。

失礼、というどこか苦笑を滲ませた声音でハルさんが部屋に入ってくる。

「お邪魔のようだから戻ろうと思ったんだが、気づかれてしまったな」

申し訳なさそうに、でも可笑しそうに唇の端を上げて。

 ……え〜と、あたしが襲われとるの見てた? いや扉の向こうに居てたから、見たわけやないか。吸血鬼パワーで感じ取られてたっちゅうこと?

 アレイストのあほ―――!!!


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