またも据え膳(危機察知)
「クソッタレ!」
ガシャン、と叩き付けるように受話器を置いたアレイストに私は肩をビクつかせた。
ありとあらゆる良くない言葉を唱え、苛立たしげに隣に腰を下ろす。
ボヨンボヨン、と反動で跳ねるソファーのスプリングに揺らされながら、私はおそるおそる口を開いた。
『親父さんに電話したんやろ? なに言うてはったん?』
チッと王子にあるまじき舌打ちのあと、赤みが増した瞳でアレイストはこちらを見やる。
やっばいな、キレかけとるやん。どーどー。
「テメエで何とかしろだと。自分の女ひとり守れないくらいで当主が務まるかってべつに当主になんかなりたくねぇっての!」
ガンとテーブルに足を乗せて。
ア、アレイストく〜ん、口調が違てはるよ〜?
こんな物騒なヤツと二人きりで居とうないんやけどもー。
メイドさんたちは不機嫌極まりないアレイストに恐れをなして早々に退散したし、切羽詰まった用事がない限り、この書斎には近づかないだろう。
孤立無援やん、あたし一人でコイツを宥めろっちゅうんかい。
キレてるときのアレイストはセクハラが激しいから、ヤバイねんけど。
案の定、もう人目はないからラブラブを演出せんでええというのに肩に手を回してきて、抱きよせようとする。
『せやからセクハラ止めいっちゅうの!』
肩に回された腕を打とうとした私の手は逆に掴まれて。
む。
ニヤリと笑ったアレイストが牙を剥く(いや比喩でなく)。
え、ナニ。
なにゆえエロ吸血鬼モードになっとんの。
「うちに帰ったら血をくれるって言ってたよね? 頂戴?」
は……!
スッカリ忘れとった!
ギラギラ赤く輝く瞳を私に据えて、アレイストは顔を寄せてくる。
あげへんわけやないけど、何かコワイー!
余裕ないっちゅうか、ガッついとる感じー!
ヤバイ、吸い尽くされる。
『ア、ア、アレイストくん、あたし冷や汗かいたからお風呂入ってからの方がエエんちゃうかな〜? せやから落ち着け!』
「何言ってるの、風呂上がりなんかにこんなことしてたら即ベッド行きだよ? 孕みたくないでしょ、まだ」
なんか仰った!?
いま何言うたーー!?