反射神経に優れています
何を思う間もなく彼の指先が私の頤を掴んで乱暴に顔を覗き込まれた。
私を見てつまらなさげに細められるすみれ色の瞳。
「平凡な顔。子を産む能力には容姿は関係ないけれど、あまり抱く気は起きないな」
あ、ヤベ、しもた。と思ったときには遅かった。
アレイストが私の顎にかけられた赤毛の手を払うより早く私の右手は動いていた。
「……っ!?」
反射的に繰り出した拳が彼の鳩尾に決まる。
まさか殴られるとは思ってなかったんだろう、グーパンチをまともに食らった彼はよろめいて打たれた腹を押さえた。
『気安う触んなセクハラ3号、あたしの顔が平凡でアンタになんの関係があんねん、ちゅうか抱くとかキモいねん、こっちこそ願い下げや!』
頭はしまったと思っているのに何故に私の口はこうも心に正直なのか。淀みなくタンカを切ってしまう。
日本語は理解出来なくても、私が罵倒したのは分かったんだろう、少年の白い美貌に朱が走る。
あああ、無駄にプライド高そうな坊っちゃんにケンカ売ってもうた〜。
「この……家畜が!」
手が振り上げられる―――、
しばかれる、と思った瞬間、私はアレイストの胸に抱き込まれていた。振り上げられた彼の手はハルさんに止められていて。
「止めなさい。君が先に失礼をしたよ。アレイストの花嫁に手をかけるなど……」
「家畜ごときに! ベルンハルト、貴方も子孫のためにイミューンに媚を売るつもりかッ」
媚を売られているイミューンとは私のことか。
言い争う、というか一方的に怒鳴ってる少年を見て、私は少し呆れた。
なんちゅうかな、あたしを見下しとんのやったら、わざわざ来んでもええと思うんやけど。
今までのアレイストたちの話から察するに、一族のお子さんを作るのにイミューンが最適で、せやからイミューンであるあたしを手に入れようとしとるんやんな。
そんなん真っ平ごめんちゅうあたしの意見は丸無視で、ジャンシールの若様方によるミツキ争奪戦が決行されようとしてて、しかしこの若様は乗り気でない。
でも上から言われたことには従わねばならない。
餌である人間なんかに媚を売るのはお偉い一族のプライドが許さないと、要は当たり散らしてるんだ。
『……お子さまやんかー。ボクちゃん、甘やかしてくれるお家にとっとと帰ったらええやん』
ボソリと呟いた私にアレイストが吹き出す。
『手厳しいね、ミツキ』
『ホンマのことやん、ひとん家来といてお行儀良うできんのは躾の行き届いとらんお子さまだけやで。さぞ甘やかされて育ったんちゃうん? あのボクちゃん』
『否定はしないよ』
意地の悪そうなくつくつ笑いを漏らすアレイストは、お坊っちゃんやけどワガママではない。
まあ、俺様やけど。