据え膳(本人自覚なし)
さらにリックおじ様のことを聞き出そうと口を開くと、その中にチョコレートを押し込まれる。
「俺のことを知りたかったんじゃないのかい? いくらでも質問してくれていいんだよ」
そうキラキラしい笑顔で言うが、特にアレイスト限定で聞きたいことなどない。
口の中のチョコレートを咀嚼しながら、「いや別に」とそっけなく返すと、世にも哀しげな顔をしてこちらをじっと見つめて。
「そんなに俺のこと、どうでもいいの」
などと、わざとらしくショボンとして、置き去りにされたワンコのように純真を装った瞳を向けてくる。
うっとうしいやっちゃなー。
はいはいどうでもエエですよ、あたしに迷惑かけんかったらどうでもエエよー。
「……傷ついた。この心の傷はミツキの血を貰わないと治らない」
『はッ!? なにをイキナリ言うとんねん!!』
脈絡なく変態セクハラ吸血鬼モードになったアレイストが、腕を回して私をソファーに押し倒してきた。
『ぎゃーー! やめんかいッ、ていうか何でこんな体勢やねん! ロルフ、ほのぼの見とらんと助けぇっ!!』
部屋の隅っこで私とアレイストのやり取りを、仏のような笑みを浮かべ見ていた青年に助けを求める。
…………が。
「では、俺はこれで失礼しますね。ごゆっくり」
と、ロルフは爽やかに笑い、部屋を出ていく。
ま、待たんかいー!
ごゆっくりて何や!
コレを主と言うなら責任持って監督せんかいッ!!
私の心の叫びは当然のごとくまるっとスルーされて、扉は閉まった。
押し倒した私の頭を撫でていた変質者アレイストがクスリと笑いを漏らす。
「準備はいいかい、ミツキ」
『何の準備やアホンダラアッ! セクハラやめい、訴えんで!』
『ただの痴話喧嘩だと思われるよ?』
きー、ああ言えばこう言う!
あたしいつか腹立てすぎて血管切れるんやないやろか。
形のよい後頭部にゲンコツを叩き込むが、まるっきり堪える様子はない。
何が楽しいのか、ヘラヘラしたアホ面であたしの首筋にかぶりついてくる。
『わああぁぁ! やめいやめいやめいッッ!! うち! 家でやるから学校ではやめーーーっ!』
私がそう言った途端、ピタリと首筋を舐めていたアレイストは動きを止め、「仕方ないなぁ」などと渋々身を離す。
何が仕方ないや。
思う存分セクハラしやがってこのキューケツキ。
変な感触の残る首筋をゴシゴシ擦る私を見て、そんなバイキンみたいに、とアレイストが拗ねる。
そのときの私たちは、城に帰ってから起こる騒動のことなど、まるで思いもしていなかったのだ――。