ロルフとお勉強


 私がアレイストとアストリッドの秘密を知ってから、はや二週間。

お姫さま部屋にもだんだん慣れ、四六時中アレイストたちに張り付かれているのにも慣れてしまったのだったが、あれ以後変なやつらは現れず、クリスナントカも登校拒否を続けているようでチラとも姿は見えない。

変わったことといえば、アレイストが美女軍団を引き連れなくなったってことと、アレイストやアスタがいないときは、ロルフが私にひっついているようになったことくらい。

どうも護衛らしい。

ロルフは日本語が片言なので、ちょうど良い機会だと私は彼相手に英会話レッスン中。

 アレイストやアスタやと、突っ込むのに大変で英語でしゃべっとる余裕があらへんのや。


「では、ロルフは、ジャンシールのひとではない?」
「俺は人間。ただ、ジャンシールの家に代々仕えてるから、事情には詳しいよ」

 てっきり仲間やと思てたわ。
 ふてぶてしいし、強気で奴らに話しかけとるし。

「まあ多少は彼らの血が流れているだろうけれどね。それはこの国出身の者だったら、誰でもそうだから」

 汚染されとるみたいやなー。
アレイストやアストリッドにバレたらお仕置きされそうな呟きを漏らして、私はテーブルに広げたレポートに意識を戻した。
レポート用紙を広げて、日本語でまず書いた内容を辞書片手に英訳していると、ヒマそうに頬杖をついてその様子を見ていた彼が言った。

「まだ課題やってるの? もう必要ないんじゃ」
「? まだ? 書くの、始めたばかりですが」

首を傾げる私に、あれ? と同じように首を傾けるロルフ。

「いや、ごめん。勘違い」

ひらひら手を振って、続きを促す男を不審の目で見てから、レポートに戻る。

 なんで聴くのは出来んのに、話す方はあかんのかなー。
 まあ、聞き取りも半分勘みたいなもんやけど。

 あれやな、脳内に覚えとる単語の絶対量が少ないからやな。ヤッパリもっと会話していかんと。

暇を持て余してお茶を淹れ始めたロルフに声をかけた。
基本はたくさん話すこと。

「ロルフは、いつからアレイストと、お友だちですか?」

私がそう訊いた途端、ぶはっ、と吹き出して茶缶を転がすロルフ。

 あれ?
 なんか間違うた?

「……っ友、ふははっ! お友だちって、そんな可愛らしいもんじゃ……」

 腹をかかえてひきつり笑いを溢す。

 友達やなかったら何なん?

「俺と、アレックスは主従だよ。……って、前にも言ったよね?」

 ロード、アンド、ヴァス……?

私が意味を翻訳できなかったのがわかったのか、ロルフは横に置いていた辞書を取り、その文字を指していく。

“ lord ”“ vassal”
 主君と家臣?

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