気づかぬうちに汚染
「普通なら、“アレイスト”の言葉に逆らう者はいないはずなんだけどね……」
笑いの発作から解放されたアストリッドがペタリと私の背中に貼り付いて、なついてくる。
「アレイストが自分のものだと宣言したミッキに手出ししようなんて、命知らずというか……そこまで追いつめられてるってことか……」
ボソリと呟やかれた憂いを秘めた言葉。聞こえるか聞こえないかの。
「にも関わらず、手出ししようとするんだ。あちらにもそれ相応の覚悟があるんだろう」
似た者従姉弟は目を見交わせニヤリとドス黒い笑みを浮かべた。
「そろそろ死にかけのクソジジイどもにはお身体のことを考え、隠居していただくことにしようか」
「いい加減、口出しされるのも我慢の限界だったし?」
クックックックッ、と悪役のような忍び笑いを漏らし、不穏なことを言い合う二人に挟まれて、私は唇をひきつらせた。
触らぬ神に祟りなし。
ほっとこ、自分に火の粉が降りかからん限りは。
年寄りは敬わなあかんで、なんてキレイゴトは言わぬ。
話聞いてると、あたしをせっせと窮地に追いやりやがってる親玉みたいやし。
年くうてるだけで敬われる時代は終わったのだ。
尊敬できない大人はそれ相応の態度で迎え撃つ。
……あかん、あたしまでこの二人に感化されとる。
出来ることならアレイスト曰く“化石ジジイ”と会う機会はありませんように。
アレイストやないけど、自分がキレんでおられるか不安やわ。
さっきは私らしくなく気弱になってたけど、時間がたつにつれフツフツと、こう、怒りが湧いてきて。
対決の時までにもうちょっと英語の罵倒語を増やしとかないと。
なんて、完全に留学した当初の目的からずれていっている日常に、ガックリしつつもシッカリ順応していることに気付く。
……私のこの図太さは、生来のものかイミューンという資質から来ているものなのか、しばらく悩んでしまった……。
新しく用意された部屋は、先程までいた部屋より微妙にこじんまりしていた。
うんうん。
居心地はこっちのほうがよさそう。