逃避してもいいですか


 コイツも血吸い魔の一族か〜。
心の中で呟いた。

 でもシモベてなんやろ。

私の顔に浮かんだ疑問を読み取ったのか、ロルフくんが補足するように言葉を繋げる。

「こちらのどうしようもない二面性のある主に忠誠を誓わせていただいてます、愚かでしょう」

口調は丁寧だが言ってることは何だかツッコミどころ満載だ。
アレイストは特に咎める様子はなく、彼の台詞を無視して書類を繰っていた。
主と言うわりに敬う様子はないし、人前ではフツーの友人同士として振る舞っていたはず。

 演技か。アレは演技なんか。

ここへ来て自分の周りの人外密度が高くなっていることを改めて自覚する。

 いやそもそも普通に生きてきて人間でないものと遭遇する確率なんてゼロやろ、ゼロ。

何だか自分一人とても損をしている気が。

他のみんなは当たり障りなく留学生活を送っているのに、私だけセクハラ吸血王子に悩まされ、親友にオモチャにされ、あげく知らない奴ら、どころか吸血鬼の子どもを作るために狙われ……

と、そこまで考えて、ぞっとした。

 さっきの話、マジなん?
 ホンマにそんな理由であたしが――、

昼間の男の妙な言葉を思い出し、自覚なく自分自身の身体を抱きしめる。その様子に気付いたアレイストが、私の名前を呼んだ。

「ミツキ。守ると言っただろう」

だから、必要以上に怯えるな。そう続けた。

私は困り果てた顔で彼を見ていたと思う。私たちの様子に首を傾げていたロルフが伺うようにアレイストに視線を向けると、奴はひとこと。

「ムルデンのクソ野郎が湧いて出た」

それだけで事情が分かったのか、頷いて、調べてきますと部屋を出て行く。

 何だかな。
 もうあたしのキャパ越えてんねん。

アレイストたちの正体も、お家事情も、自分が置かれた立場も。

無言になってさっきとは逆にソファーに寝そべった私の髪を、アレイストが優しく撫でる。
さっきまでならセクハラ! と言う行為も、今の私には、何故かホッとするもので。

 今頃カルチャーショック?
 そうなんやろうか。

 日本に帰りたい。
 せせこましい世界でのんびり退屈な日常を過ごしたい。
 このストレスをカラオケ半日耐久レースで発散したい。

 ちなみにカラオケ半日耐久レースというのは、そのまんま有り金はたいて半日カラオケボックスに籠り、自分の持ち歌をネタが切れても歌い続けるという楽しいんだか辛いんだかわからない、私たち仲間内でのイベント。
最後にはやけにハイになっておかしいくらい笑い転げてたりする。
知らない人がその光景を見ると、ギョッとするだろう異様な遊びだ。

 こっちってカラオケボックスないんかなー。

 ……何考えてたんやっけ。
 ああ、そうそう、人を子産みマシーンと見なしている失礼な奴らがいて、あたしは警戒せんとあかんくて、アレイストは守ってくれるっちゅう話……。

私はコクリと首を傾げた。

 何でアレイストはそこまでしてくれるんやろ?



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