シモベ
膝に乗った頭が動くとくすぐったいのでじっとしといてほしいんやけど。
って、腹に顔を押し付けんなああぁッ! プニプニがバレるっ! いや違う、今日何回目のセクハラやっ!
『貴様元気になったんやったらとっとと退け! 大概にせんとシバくで!?』
『やだ。気持ちいいから離れたくない。……ミツキは柔らかいね〜』
またしても、腰に抱きつきそんなことを言う。
悪かったな小太りでぇっ!!
てゆうかあんたキャラ変わっとらんか!? そんな姿お取り巻きが見たら唖然愕然みんなガックリやで!
コバンザメのように私の腹に張り付いて離れないセクハラ男と離せ、嫌だ、を繰り返していると、ガチャリと扉が開いた。
「アレク! 何が、………」
ソファーの上で揉み合う私と部屋の主を見て、入ってきた人物がピタリと止まる。
誰やっけ、あれやん、あれ、アレイストのお付き……あかん、金髪としか認識してへんかったから名前が思い出せん。
「悪い。邪魔した」
踵を返し、去ろうとする彼を慌てて引き留めた。
『邪魔してへんからあぁぁ! コレなんとかして、剥がしてー!』
「ああ邪魔だ、出ていけ」
ムッツリと答えるアレイストに私の方が焦る。
ね、猫どっか行ってんで、うさんくさ笑顔仮面かぶってへんで、バレたらヤバないん……、
「……我が君、いくら貴方の花嫁だからといって、こんな場所で無理強いはいけませんよ」
………アレ?
まいろーど、ってナニ。
呆れた視線をアレイストに向けた彼に首を傾げる。
「うっとうしい奴だな、ロル。せっかく二人きりだったのに」
しぶしぶという風に、やっとアレイストは私から手を離し、乱れた髪をかき上げながら座り直した。
「嫌われても宜しいんですか、まだ約定すら交わしていないくせに」
何だかいつもと違う気がする口調の金髪は、こちらまでやって来て、アレイストを覗き込み、に平気ですかと訊ねる。
疑問に満ち満ちた私の凝視に気付いた彼は、今まで垣間見ていた軽薄外人の笑顔ではなく、紳士的な笑みを私に向けて、恭しく礼をとった。
「こうして直接顔を合わせるのは初めてですね? ロルフ・アンダーソンです、お見知りおきを、マイレディ」
「気取るな」
すかさずアレイストのツッコミが入る。
マイレディはやめてー、もう、きっしょい奴しかおらんのか、と明るい金髪を短く刈り込んだ体格のよい青年を見上げた。
「……えとー、ロルフ? もしかして、あなたも、アレイストのメンバー……」
「俺の下僕。だからミツキも好きに使っていいよ」
アレイストが素っ気なく言うと、彼は「せめてシモベと仰ってくれませんかね」と肩をすくめた。