体罰ちゃうよ、愛のムチなん


部屋に生けてあった薔薇が崩れる音がした。
一瞬で、時間を過ぎ、茶けて枯れた姿に。形を保てなくなり、ザラリと床にこぼれる。
窓枠がチリチリ鳴り、家具が微かに軋み出す。

日本人にはお馴染みの地震のようなその揺れは、この部屋の中心に座る存在が震源だ。

「アレイスト……っ!」

アスタが何かに圧された姿勢でソファーに手を突きながら叫ぶ。
呼ばれたアレイストは微動だにせず、赤い眼でジッと家系図を見ている。
そこに書きつけられている名が、その視線で滅びることを望むような、闇を秘めた瞳で―――

ボッと紙片が炎に包まれた瞬間、私は我に返った。

『このアホンダラ! 室内で火ぃつけんな火事になるやろ!』

部屋に入ったときから密かに気に入り、ずっと抱きしめていたクッションでアホアレイストの頭をはたく。ほとんど条件反射と言ってもよかった。

クッションをぶつけられ、無防備なまでにビックリした表情のアレイストの目の前からティーカップを奪い取り、火のついた紙に中身をぶちまける。
紅茶をかけられた炎はおさまり、火事回避。

 ガラスのテーブルでよかったわ、もう。
 はふぅと息を吐く間もなく私はポカンとしたままの野郎を睨み付け、叱り飛ばした。

『このボケ、なに危ないキレ方しとんねん! 傍迷惑にもほどがあるわ! 変態でセクハラで血吸い魔で更に放火魔の称号まで欲しいんか!』

ぱちぱち瞬きをしているアレイストのコメカミに拳骨を押しあてグリグリの刑に処してやる。
弟たちが悪さをしたときにいつもしていた私の十八番。

 こいつはホンマにイチから教育が必要やな!

『だいたい今のあんたがキレるとこか? 焦点にされてるあたしより先に何であんたがキレんねん、あとあたしはあんたのモノちゃうねん、言葉遣いに気ぃつけえ、……ぎゃあッ!?』

されるがままになっていたアレイストの腕が私の腰に回り、そのまま抱きしめられた。
ギュウギュウと頭がちょうど私のお腹に当たる格好になって。

 いや―――っ、セクハラセクハラセクハラ!!!

『やめ、コラ離さんかい! どこ触って……ぎゃあぁっ痴漢――!!』

 アスタあぁぁっ! 見てんと助けんかいアホーー!!

頭をベシベシ叩いても、剥がそうとしてもアレイストは私の腹から離れなかった。

 てゆうか余計に強く拘束され……っスリスリするな! なつくなっ!

「助かった…さすがミッキだね」

ホッと息を吐いてアストリッドがそう言ったが、私はそれどころではなく、腹を抱き潰すかのようにしがみついてくるセクハラ男から逃れようとひたすらジタバタしていた。


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