吸血の一族
貧血やから輸血が必要、みたいなもんやろか。
『あんまし飲まんでもええとか、言ってへんかった? 一日少しで大丈夫て』
そうゆうたから、まあいいか思うて献血したることにしたんや。
世話になっとることやし、迷惑料のつもりで。(ん? アレ、でも迷惑かけられとるのはあたしの方やったっけ、って昨日もこれ考えとったな)
せやのに飲まへんかったら死んでまうて怖いやん。
私の疑問に満ちた瞳に気付いて、
『一度にたくさんくれればその分長持ちするよ?』
にっこり笑って言いやがるアレイストに眉をしかめた。
たくさんやったら今度はこっちが倒れるやんか。
あたしの血は安ないんじゃ。
『一口以上はやらん』
キッパリ言い放つと、残念、とどこまで本気なんだか肩をすくめる。
ハッ、違う違う、今話しているのは……、
『そんで結局何が言いたいん? あたしに隠しとることの話やなかったん!』
せっかちな私は答えを式もなく求めてしまう。それを宥めながら、だからね、と、どう言って良いものかと悩んで、アレイストは言葉を探すように頭の上辺りに視線をさ迷わせた。
『まず、俺たちの生態を知っていてもらわないと、分かりづらいかと思ったんだ』
吸血鬼の生態なんか知りとうないけど、理解のためにはしゃあないな。
私は大人しく聞く体勢に入った。
『――俺たちは、吸血の一族で、人に似ながら人と違う力を持っている。
身体能力、
魔力、
――そして、寿命 』
『……不老不死やないやろ? あんたのお父さんニュースで見たことあるけど、歳とったはったし』
ナイスミドルさんやった。直接会ったら吸血鬼の魅力とか関係なしにポウっとなってまいそうな、かっこええおじ様な感じの。
『はッ! あんたらそんな外見で、もしや百何歳とか言う!? いくら日本とカリキュラムが違うゆうても高校生て、サバ読みすぎちゃうん!』
『俺はちゃんとこの外見で十八歳だよ……先はわからないけどね』
アスタは十九歳やんな。一番年上なん。
『まあ、人よりゆっくり歳をとって行くし、その為寿命が長いのは否定しないよ。昔の一族は青年期辺りから成長がゆっくりになって、寿命も大体三百から五百歳あったなんて言われているけれど』
伝説だね、と言うアレイストは何故か皮肉げな瞳をしていた。自分を、嘲るような。
……そうゆう顔は好かん。
あたしがアレイストたちの秘密を知って二日……二日なん、まだ? 一ヶ月もたったような気分や。
この短い、濃密な時間を過ごした間に、私は随分彼の表情を読み取ることに長けてしまったと思う。
わけのわからん奴、と思っていることに今も違いはないけれど、ひとつ気が付いたことがあった。
――アレイストは、あまり自分のことが好きじゃないのだ―――。
どうしてだか、それを強く感じた。