吸血鬼
『ミツキは我々をどういう生き物だと考えている?』
込み入った話になるからと、カフェテリアから場所を移し、ここは南棟にあるアレイストの代表役員室。
役員室というからには生徒会室みたいなものだと思っていた私の予想は、見事に裏切られた。
なんやこの応接室みたいな部屋は。
アレイストん家にあるものと見劣りしない立派な(そしてお高そうな)調度品。腰掛けているのはフッカフカのソファー。
アストリッドは我が物顔でティーセットを何処からか取り出し、お茶を淹れたりなんかしている。
こないな部屋で真面目な話し合いが出来るんか。
何でキッチンがこんな部屋ん中にあんねん……。
世の貧富の差に心のうちで不平を並べ立てながら、触り心地のよいクッションをムニムニ腕の中で玩んでいると、おもむろにアレイストが口を開いた。英語だと私に上手く言葉が伝わらないと思ったのか、わざわざ日本語で。
――ミツキは我々をどういう生き物だと考えている?――
どういう生き物?
『どないな……って吸血鬼やろ?』
『その、“吸血鬼”がどういうものだと思っている?』
む、と口をへの字に曲げ、私は映画や小説、マンガで培った知識を指折り数えながら上げていく。
吸血鬼。
魔物、一度死んで生き返った不死の化物として物語などでは扱われている。
一番は、人の生血を飲む、やろ。
苦手なんは、十字架、ニンニク、太陽の光、流れる水、心臓を杭で打たれると死ぬ、狼や蝙蝠、霧に姿を変えられるっちゅう話もあったっけ。
『そういう作り事のものと、アレイストらは違うくらいは分かっとるで?』
今度は折った指を戻しながら。
死人やないし、太陽の光の下でヘーキで歩いとるし、水を避けることもないし、十字架もヘーキみたいやし、昨日の夕食はニンニクのきいたラビオリやったし、美味しかった……、
あれ?
そういや、
『二人ともご飯普通に食べとるな? 血は別腹なん?』
別腹という言葉がツボに入ったのかアストリッドが笑いだす。
いつものことだと放っておいて、朝も昼も私と同じように食事を取っていたアレイストに問い掛ける視線を向けた。
『多少は食べなくても平気だけどね。そうだな、こう言った方が分かりやすいかな。
食物は肉体を維持するもの、精血は魂を維持するもの――
食物を摂取しなくても死なないけど、血液を口にしなければ確実に飢えて死んでしまう』