招かれざる客・2
チラリと黙ったままのアストリッドを見ると、冷めた目で彼を眺めていたので、この登場が友人にとっても気に入らないものなのだとわかり、納得して私の中で金髪の位置付けが決まる。
友の敵は我の敵。
エネミー認定。
『ええ加減に離さんかい。セクハラ禁止やて言うとるやろ』
唯一自由になる右手でアレイストに遠慮なく裏拳を放ち、手が緩んだスキに膝から降りた。
なんや昨日からこんなんばっかりや。いつの間にかこのペット扱いに慣れそうで怖いし。
「ミツキ……!」
咎めるような声を上げたアレイストを一瞥し、金髪に向き直る。
私の視線を受け、キラキラしい笑顔になる金髪。
その笑顔、よお見たことあるわ。
自分の魅力に全てのものは従うに違いないという、傲慢な上位者の笑み。
悪いな、美形にも吸血鬼の魅力とやらにも免疫あんねん。
私はビシリと金髪に指を突き付け、アレイストに訊いた。
「で、誰? このセクハラ2号」
私の金髪に対する非友好的態度に肩の力を抜き、安堵した様子でアレイストはため息をつく。何を心配しとんねん。
くくっ、と笑いを漏らしたアストリッドが代わりに紹介してくれた。
「ソレもあたしたちの従兄弟だよ。クリストフェル・ニルト・ムルデン・ジャンシール。覚えなくていいよ」
何気に毒を混ぜることは忘れない。
『こんなんうちの学校におった? アホみたいに女子どもが騒ぎそうなんやけど』
日本語がわかるのかわからないのか、クリスナントカの眉が私の発言にピクリとする。しかし、自分から名乗りもしないでセクハラをかます奴に持ち合わせる礼儀はないので無視。
『一応在学はしているよ。滅多に来ないけど』
クスと笑いながらアレイスト。
『登校拒否児?』
『人間なんかと一緒の空気が吸えるか、なんだってー』
私たちに対して友好的なアストリッドが呆れたように肩をすくめた。
『その人間様の血を吸うて生きとるくせにか。あほちゃうか』
『それを言われると心苦しいけどね』
せやな、アレイストはめちゃくちゃ心当たりありそうやもんな。
「若君。人を前にして分からない言語で会話をするのは卑怯ではありませんか」
無視されることに耐えられなかったのか、クリスナントカが口を挟んでくる。
堪え性ないなー。
まあ、ワザと日本語で話したってんけど。
あかん、アレイストとアスタの性格悪いの移ったみたいや。
「ああ、すまないね、俺の女神はまだこちらの言語に不馴れで」
「ミッキを口説くなら日本語も習得しないとね」
クスクスクスと双子のように息の合いまくったコンビネーションでイヤミったらしく二人は笑う。
……やっぱり交遊関係を見直した方がいいかもしれない。