流されるばかりと思うなよ
くっそ、ますます私に向けられれる視線が痛く……、
八つ当たりぎみに私はヘラヘラしているアレイストを睨んだ。
『だいたいあの言い訳なんやねん! いつ! なんどき! あたしがあんたの、コ・ン・ヤ・ク・シャ! なんてもんになった! どんな無茶ブリやねん、みんな納得するわけないやろ!』
……そう。
今日、私が拒否ったにもかかわらず、運転手つきの車に詰め込まれ登校すると、校内は“とうとう王子がミツキ・アキハを捕まえた!”なんていうワケの分からん噂が飛び交っていたのだ。
捕まえた、て何やねん。
あたしは檻から逃げ出した猿か。
「アレイストがミッキにご執心なのは皆の知るところだったからね〜。……痕まで付けられちゃってるし…そりゃデキたと思うでしょ」
「アストリッド?」
ぷふふ、と完全に面白がっている含み笑いのアスタに、釘を刺すような慇懃ニッコリ笑顔をアレイストは向ける。
聞きなれない単語を耳にすると思考が停止してしまう私は、そんな二人をそっちのけで今のアストリッドの台詞を訳していた。
いん……infatuated?て、何やっけ〜?
あとで調べよ。
『教室に行って、突然キラキラ瞳ぇ輝かしたお嬢様がたから“御婚約おめでとうございます”とか言われて心臓飛び出るかと思うたわ。
アレが、あんたの“何とかする”なんかい。その場しのぎにもほどがあるっちゅーねん』
あたしが帰国したあとどないすんねん。
アレイストの作戦の穴を指摘する私の耳に、ボソリと小さく呟く声。
「まだ帰れるつもりでいるんだ……」
ん? 今ナニ言うた?
訝しげに目をすがめる私にいつものうさんくさい笑みを送り、アレイストは「一番害がない言い訳だったんだよ」と、丸め込む作戦に出やがる。
「それに、俺も決まった相手がいるとなると、うっとうしいお誘いを受けずに済むしね。助けると思って、しばらく協力してくれないかな?」
上目遣いに顔を覗き込んでくるアレイストの眉を下げて見せる困ってるんだよアピールに、私はフン、と鼻息も荒くそのお願いを却下する。
みんなにエエ顔するからじゃ。
せいぜい苦労せえ。