献血だと思うことにした。
『……アレイスト。それ以上余計なことすると血ぃやらへんで』
低い声で告げると途端に行儀よく座り直す血吸い魔。
効果がある思てへんかったけど、こんな反応するちゅうことは、あたしの血がご馳走言うたんは、あながち冗談でもないんやな。
ようやく引き笑いほどになったアストリッドがその様子を眺めて、身を起こした。
「なになに、もうディスディーリィ結んだの? もう少し待つって言ってなかった」
「アストリッド」
咎めるような声でアレイストに名前を呼ばれたアストリッドは、口をつぐんだ。私は首を傾げる。
ディ……なんやて?
聞き取れなかった単語の意味を訊ねようと口を開いた私を遮るように、アストリッドが先に訊いてくる。
『ミッキ、こいつに血をあげるの? 昨日関わるのめちゃくちゃ嫌がってたのに、どういう心境の変化?』
てか、今だって関わるの嫌やけど。もうこうなったら仕方ないっていうか、
『心境に変化はないけど、献血やと思うことにしてん。せやからイキナリ“がぶり”は無しって約束させたんや』
物欲しげな眼でしょっちゅう周りをウロウロされるより(ホントに昨日そうだった)、きっちり決めてやった方がマシ。
ふううう〜ん、と何か言いたげな目でアレイストを見たあと、でもさ、とアスタは私に向き直った。
『ミッキはあたしたちが怖くないの』
よく似た葡萄色の瞳がふたつ、私に向けられる。答えを待っているのか、私の誤魔化しを許さないように、じっと。
何だかな。
パフェをつついていた私は、スプーンをくわえて肩をすくめた。
『あ〜、そうゆうのはもう通り越してます。 あたしは差別はせえへんポリシーや。こっちに来て散々東洋人てことでうすら差別されとったしな、自分がされて嫌なことは他人にもしませんー。アレイストやアスタが……“アレ”だろうと人種の違いみたいなもんやろ、どうでもええ』
これだけ内に踏み込んでしまっては、怖いなんて思うことも難しい。ええ加減にせえ、と思うことはようあってもな。
『ぎゃわッ!?』
避ける間もない素早さで、唇を頬に押し付けられて奇声を上げた。
またしてもアレイストにほっぺチューを奪われた私はスプーンを振り回して怒鳴る。
「セクハラ禁止! 次したらぶつ!」
そうゆうとこをええ加減にせえといいたいんや、あたしはッ!
怒りまくる私の視線など意にも介さず微笑むアレイストは、
「頬で我慢した俺を誉めてほしい」などと勝手なことを言い、
アスタはアスタで、「ソレをどうでもいいなんて言うのはミッキくらいだ」とニヤニヤ笑っていた。