引越し蕎麦は必要ですか
ええとー、
あたしが秘密を知ってしもたから、一族の化石ジジイとやらに幽閉されへんように、アレイストとアストリッドが匿ってくれるんやな?
オモチャ扱いとはいえ、友情らしきものを持たれているのは何となくわかるので、それはいいのだけれど。
この手際のよさにいささか疑問を感じるのは私だけだろうか。
なんか、逃げ道を封じられているようなー……。
「そうそう、ちゃんと冷蔵庫も頼んでおいたよ。小さいので構わないよね?」
うわ、さっきの話マジやったん? 勢いで言うたのに。
「……ホントにこの部屋に置く、ですか? いいのですか」
落ち着いた美しさのある調度品のなかに、武骨な冷蔵庫が鎮座する、そんな想像をして私は眉をひそめた。
それを違う意味に取ったのか、アレイストがやっぱりズレた反応を返してくる。
「うん? ぁ、そうか、トースターもいるんだね。それは用意してくれているかな……」
ちゃうっちゅーねん。
どんだけあたしはなっトーストにこだわっとるっちゅーハナシやねん。こだわっとるけどさ。
そうやなくて!
「怒る……られない?私がお世話になるのも、……あ。ええと、挨拶? してない」
そうだった! 不可抗力とはいえ居候するのにご挨拶を欠くなんて、失礼な。そんな礼儀知らずはうちの血筋ではないと秋葉家のご先祖様に叱られてしまう!
アレイストのご家族に対面しなくてはならない、ということを考えたら、また嫌な汗が背中を流れるのを感じたけど、こういうことはちゃんとしないと。
迷惑かけるんだから。どっちかというと大迷惑被っているのはこっちのような気がするけど。
そんな私に、今度はアレイストが首を傾げる。
「挨拶? 誰に?」
誰にて決まっとるやろ、それともこっちにはそうゆう礼儀を大事にする習慣はないんか?
頭はいいくせに物分かりの悪いアレイストにイラッとして、つい口調がキツくなってしまう。
「ご家族に!」
ようやく私の言いたいことに気づいたのか、ああ、と頷いたアレイストは、次にとんでもない事実を暴露しやがった。
「必要ないよ。この家には俺しかいないから」
………。
『は!?』
俺しかいないから、俺しかいないからってようするにこのデカイ城にアレイストしか住んどらんの!? 無駄っっ!!
いやいやそんなことより問題は。